九三年の映画『望郷』(斎藤耕一監督)では主人公の父親役で、多くの映画賞を受賞している。
「当時は僕もちょうど転換期でした。主役が来なくなって、結構ショックだったりして。
そんな時に斎藤監督から『ちょっとお前には早いかもしれないけどな』と言われて出ることになりました。『津川雅彦に決めていたんだけど、お前、やってみるか』って。確かに津川さんにぴったりなんです。でも、監督のスカウトで俳優になって、僕のことをずっと見ていてくれたんでしょうね。それで『ぜひやらせてください』と。
ロケハンにも同行しましたし、鹿児島での少年役のオーディションの際には全員の相手役もしました。それで、『映画ってこうやってできていくのか』と初めて知るわけです。監督もスタッフも、みんなの想いが分かりました。そういう所から入れたのが良かったのだと思います。
監督はきっとこういうことがやりたいんだと分かっていると、凄くやりやすい。僕は文学を知らないので、空想ができない。
ですから現実でそうやって会っていないと。自分で立ち上げられないんで、みんなと話す中で確認していく。ですから、演出家によって凄く変わるんです。話ができる演出家だといいんですが、それがないと全然ダメになってしまいます」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2021年5月21日号