裏表なく、常に屈託なく率直に話すドドンゴさん。これもドドンゴさんの長所だろう。考えてみれば、大半の労働というのはもっとシンプルで、誰にも出来るものだった。たとえばかつての印刷会社には断裁工がいた。ただ紙をひたすら切る仕事だが、慣れやコツの問題はあっても複雑な仕事ではない。同じく印刷会社には各出版社を回って入稿物を回収するだけ、という仕事もあった。どれも当時は正社員であった。筆者の幼少期も、一日何回か役所や学校の文書を運んで届けるだけという仕事があって友人の父がやっていた。むろん正規の公務員である。「誰もやりたがらないので中卒が3人受けて3人受かった」と謙遜していたが、昭和まではドドンゴさんのような人でも家庭を持ち、マイホームを建て、贅沢はできなくとも安定して生活できる仕事がたくさんあった。いまや単純労働のほとんどは機械やAIに代替されるか廃止、従事できても大半が非正規、ましてやそれなりに複雑な作業と過剰なクオリティが求められる。
ポンコツな自分も自分。偏差値30で怪獣ばかりの頭も悪くない
「結婚はまだです。したいのですが相手がみつかりません。ちゃんとつき合ったこともない」
さすがにドドンゴさんも怪獣の話ができる女性を求めているわけではないが、同居のご両親を安心させるためにも結婚はしたいという。一人っ子でずっと実家、おおらかなご両親と仲がいいというのも地獄の学校生活と転職まみれのドドンゴさんを救った部分だろうが、それはそれで結婚の足かせにもなっているとこぼす。一人っ子の未婚中年ジジババ付きでは厳しいとも。理想は南夕子(『ウルトラマンA』の中盤までの主役の一人)だそうだ。
「それだけじゃなく給料も安いですからね、ただ正社員ってだけです。私みたいなポンコツが贅沢かもしれませんが、それ(収入面)も敬遠されますね」
しかしドドンゴさん、中高年未婚男性にありがちな「若い女性と結婚したい」という望みは無いと語る(南夕子の設定は10代なのだが……)。子どもはいらないとも。
「かわいそうじゃないですか、私みたいな子どもが生まれたら。(たとえば)アンパンマンとかポケモンのキャラしか覚えられない子どもなんて」
遺伝するかどうかはわからないし精神医学、発達心理学に関する言及は本稿の主題でないため避けるが、そんな子どもだっていたっていいと思う。ドドンゴさんのような人でも生活できる環境を実現するのがノーマライゼーションだ。福祉の未整備な昭和以前だが、ドドンゴさんが自嘲するところの”ポンコツ”に優しい社会という面もあった。日本は元来のんびりした国だった。うっかり八兵衛でも与太郎でも、結婚して子どもを生んで、長屋でからかわれたり愛されたりして暮らせた。一概には言えないし江戸時代は極端だが、昭和もそれに類するおっちゃんが普通に暮らしていた。21世紀は“ポンコツ”に厳しすぎる。
「いやそんな子どもヤバいですよ。だって私、怪獣知識の間違いとか見つけるとムキになっちゃう子でしたから。止められないんです。それで嫌われたりキモがられた。自覚はあるんですが、学校でも仕事でも地獄見ました。こんな思いさせたくないですよ」