倉庫でひとり黙々と働くのは苦にならない(イメージ)
ドドンゴさんは好きな話に転じると自重できない。先ほどのように機関銃のようにまくしたて、その怪獣を、ストーリーを誰もが知っている体で語り尽くす。
「なんで怪獣なんでしょうね、学校の勉強とか資格とかならいいのに」
確かに、ウルトラ怪獣ではなく六法や判例ならドドンゴさんは弁護士になれていたかもしれないし、広範囲な学習知識なら東大に入れたかもしれない。ましてやウルトラ怪獣の知識は完璧なドドンゴさんだが、ウルトラシリーズの背景にある深いストーリー性や現実社会と結びつけた考察などは理解できないという。ただ「ウルトラ怪獣が好き!」で表面上の怪獣知識とストーリーの羅列が好き。なかなか難儀な記憶力だ。しかし表面上の見かけは普通、話してもスイッチさえ入らなければ、きっかけさえ無ければ本当に普通の人だ。
「その普通っぽいのがほんと困るんです。学校でもそうだったし、仕事でもそう。忘れ物は多いし時間もルーズでミスばかり、とくに(口頭で)言われただけじゃ駄目ですね。ちゃんと紙に書いてもらわないと」
筋道立てて一から百まで説明を書いてもらえれば問題ないというが、多くの現場はそうはいかない。ドドンゴさんは数え切れないくらいの転職を繰り返し、現在は運送会社の倉庫で働いている。そこは中小企業ながら理解ある上司や同僚に恵まれ、きっちりドドンゴさん専用のマニュアルまで用意されているという。ドドンゴさんもさすがに50代、以前よりは気をつけて働いているとのこと。仕事では余計な話をしないように努力しているという。倉庫がシャドー星人に爆破されるとかキングゲスラが襲ってくる(キリがないので説明割愛)とか妄想してしまうが頭だけにしまい込む。年齢と社会経験、失敗を重ねる中でドドンゴさんなりに修正してきたのだろう。根は真面目なのも幸いした。
「書いてあることをそのままやるのは大丈夫です。単純作業は苦になりません」
作業中はほとんど話す機会もないが、ドドンゴさんは平気だという。むしろ作業途中で別のことを言われたりすると頭が混乱してしまうのでほっといて欲しいそうだ。たまに運転仕事もあるがとくに問題はない。運転は好きで無事故。要するにドドンゴさんは好きなことは問題なくこなすが、その幅が極端に狭く、ごく限られているということだろう。
「こんな私に向いている仕事と会社に出会えて感謝してます。とても優しい上司で、本当にありがたいことです」