産まれる前の娘のエコー画像(写真提供/和さん)
2019年12月、和さんは将一さんと結婚。体外受精のタイミングを見計らっていた2020年1月、自然妊娠が発覚し、7月に娘を出産した。ステージIVのがんを抱えながらの妊娠・出産はほぼ前例がなく、一筋縄ではいかないものだった。
「妊娠中に、がんが卵巣に転移してしまって。赤ちゃんをできるだけ長くお腹で育ててあげたかったのですが、医師から『あなたの命がもたない』と言われ、妊娠27週で帝王切開することになりました。早産なので肺が未熟で……なんとか産声は上げてくれましたが、生まれてすぐNICU(新生児集中治療室)に運ばれました」
一方の和さんも、卵巣の腫瘍が爆発的に大きくなり、体調が悪化、入院生活を続けざるを得なかった。
「お腹が苦しいうえ、胸水もたまって呼吸がうまくできず、陸で溺れているような状態でした。歩くのもつらく、移動は車いすでした。このとき初めて『死ぬかもしれない』と思いました。でも、娘と同じ病院に入院していたから毎日会いに行けた。それが唯一の救いでした」
体重わずか980gで生まれた娘は、保育器で3か月ほど育てられた。
「呼吸が安定しないからと人工呼吸器を装着され、たくさんの管がつながっている状態でした。最初は、保育器の中に手を入れて、娘の手を握ったり、触ったりしました。壊れちゃいそうなくらい、小さかったのを覚えています」
初めて“抱っこ”ができたのは、生後1か月半のこと。NICUの看護師からは、「母親と離れている期間が長いから、スキンシップが大事」と、赤ちゃんを胸に乗せて抱っこする「カンガルーケア」をすすめられたという。
「私がリクライニングいすに座り、赤ちゃんを体の上に乗せる形でした。正直、軽すぎて『怖い!』と思いました。隣にいた(夫の)遠藤さんは娘にメロメロで、早くも『変な男がつかないか心配だ』って言ってました(笑い)」
夫の将一さんは、NICUの看護師たちから“子育ての基礎”をたたき込まれていた。
「『パパがお世話できるようにならないとダメでしょう。ほら、やってみて』と有無を言わさない雰囲気で……(笑い)。ミルクの作り方や飲ませ方、沐浴方法などみっちり教えられました」(将一さん)
すっかり育児が板について頼もしくなった将一さん。いまや料理や掃除といった家事全般も、問題なくこなせるようになったという。