ライフ

裸体とヘアはいつから「猥褻」に?西洋の価値観流入がひとつの契機に

猥褻の境界線はどこに?

猥褻の境界線はどこに?

 美術の世界では「裸体」や「裸婦」は重要なモチーフだが、そこで常に問題視されてきたのが「陰毛」だ。裸体と陰毛は切っても切り離せないものだが、猥褻の境界線はどこになるのか? 陰毛の歴史に迫った『ヘアヌードの誕生』の著者・安田理央氏が解説する。

 * * *
 ルネッサンス期のヨーロッパでは裸体美術も盛んだったが、宗教的なモチーフを描くことのみに許されていたため、生々しくなってしまう陰毛表現は敬遠された。女性の股間は陰毛も性器もないツルツルな状態として描かれたのである。

 しかし19世紀に写真が発明されると、すぐにヌード写真も撮られるようになり、そこでは陰毛は修正しない限りそのまま写った。いや、むしろ陰毛を強調するような写真も多かった。絵画においても、写真の影響で陰毛まで描く写実的な画家が増えていった。20世紀に入ると陰毛は次第にダブーではなくなっていく。クリムトやドンゲン、モディリアーニなどが陰毛を描き込んだ絵を次々と発表した。

 そして70年代にポルノが解禁されると、もはや欧米では誰も陰毛を問題視することはなくなったのである。

 一方、日本では平安時代に生まれたと言われる春画において、陰毛も性器もしっかりと描きこむのが普通だった。江戸時代には木版印刷の技術が広まったことで、春画も庶民が楽しめるようになっていく。この時期の春画の陰毛の一本一本まで丁寧に彫り上げられている技巧には驚かされる。

 しかし開国の時代を迎えると、裸体に関して厳格な西洋の価値観が流入してきたことから、混浴や春画が禁じられてしまう。

 その一方で西洋の美術にも触れることとなり、従来の日本にはなかった裸婦美術という概念は大きな摩擦を起こした。裸は猥褻なものだと禁止しておきながら、裸は芸術だとも言う矛盾はその後の日本のヌード観に影響を与え続けることとなる。陰毛が猥褻なものと考えられるようになったのもこの時期からである。

※週刊ポスト2021年7月2日号

関連記事

トピックス

送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
この笑顔はいつまで続くのか(左から吉村洋文氏、高市早苗・首相、藤田文武氏)
自民・維新連立の時限爆弾となる「橋下徹氏の鶴の一声」 高市首相とは過去に確執、維新党内では「橋下氏の影響下から独立すべき」との意見も
週刊ポスト
元・明石市長の泉房穂氏
財務官僚が描くシナリオで「政治家が夢を語れなくなっている」前・明石市長の泉房穂氏(62)が国政復帰して感じた“強烈な危機感”
NEWSポストセブン
新恋人のA氏と腕を組み歩く姿
《そういう男性が集まりやすいのか…》安達祐実と新恋人・NHK敏腕Pの手つなぎアツアツデートに見えた「Tシャツがつなぐ元夫との奇妙な縁」
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
あとは「ワールドシリーズMVP」(写真/EPA=時事)
大谷翔平、残された唯一の勲章「WシリーズMVP」に立ちはだかるブルージェイズの主砲ゲレーロJr. シュナイダー監督の「申告敬遠」も“意外な難敵”に
週刊ポスト
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左/バトル・ニュース提供、右/時事通信フォト)
《激しい損傷》「50メートルくらい遺体を引きずって……」岩手県北上市・温泉旅館の従業員がクマ被害で死亡、猟友会が語る“緊迫の現場”
NEWSポストセブン
WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン