──有名になることがリスクを高めるということでしょうか?
これは難しいですよね。SNSの登場で、個人の「評判」が富に直結する「評判経済」が現実のものとなりました。SNSで多くのフォロワーをもつインフルエンサーには多くの仕事が舞い込むように、より多くの評判がより大きな人的資本を形成するようになってきた。そうなると、有名にならなければ自己実現できないと考えるひとたちが出てくるだろうし、現にそうなっています。
とはいえ、政治家や芸能人ならともかく、一般のひとがプライバシーを犠牲にしてまで有名になることを目指す価値があるのかは、私にはよくわかりません。プライバシーは「いったん失えば二度と取り戻すことはできない」という際立った特徴をもつ貴重かつ稀少な資産で、いったん刻印された悪評は一生ついてまわるのですから。
漫画家などは昔から素顔を見せない人が多かったのですが、最近ではミュージシャンでも顔出ししないケースが増えてきましたよね。SNSやインターネットを上手に使えば、プライバシーを守ったままで大きな評判を獲得できる。そう考えれば、今後、「自分マネジメント」「自分パブリシティ」がますます重要になっていくのだろうと思います。もっとも、私はすべてのひとがこのようなことができるようになるとは思いませんが。(了)
【プロフィール】橘玲(たちばな・あきら)
1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。その他の著書に『上級国民/下級国民』『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』など。7月29日にリベラル化する社会の「残酷な構造」を描いた最新刊『無理ゲー社会』を上梓。