ライフ

養老孟司さん 佐藤愛子さん新エッセイ集に「自足の精神が気持ちいい」

養老孟司さん

佐藤愛子さんの最新エッセイについて綴った養老孟司さん

 2017年の年間ベストセラー総合第1位になった『九十歳。何がめでたい』に続く、佐藤愛子さんの最新&最後のエッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』が8月6日に刊行された。医学博士・解剖学者の養老孟司さんが、このエッセイ集について綴る。

 * * *
 いまの日本は、現状に満足せず、「あれがない、これがない」と文句や要求の多い高齢者が多いように感じます。また一方では、自社ロケットで宇宙旅行に行くような、あくなき欲求を追求する人も……。一見全く違う彼らを見て思い浮かぶ1つの言葉は、「自足」──足るを知る、ということがないわけです。

 その点、佐藤愛子さんは、自足した老人の典型でしょう。自分がいちばん居心地がいい状態をよくご存じなのです。今回の『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』を読むと、そうした自足の精神が全体を通して伝わってきます。

 象徴的なのは、「算数バカの冒険」「不精の咎」「今になってしみじみと」の3編にわたる、別荘建築の話です。佐藤さんが北海道に別荘を建てている途中、業者の手違いで予算が足りなくなった。そこで作りかけの二階工事を中断して、天井や内壁がないまま家を完成させた──そんないきさつがユーモラスに綴られた後、こう続きます。

《あれから四十五年経った。(中略)天井はなくても屋根がある。内壁はなくても外壁があれば雨風が吹き入ることもない。ここは夏の家だ。冬は来ない。だからこれでヨイのである。私は満足して毎年の夏を楽しく過した》

 このエピソードからも分かるように、佐藤さんは業者の手違いを責め立てることなく、成り行きに任せました。佐藤さんは、人にあれしろ、これしろ、といろいろ要求しませんし、万事、自分にとって問題がなければいい。そんな一貫性が感じられます。私にはそこが、読んでいてとても気持ちいい。だから佐藤さんは人気があるんだと思います。

 佐藤さんは最後の一編「さようなら、みなさん」で断筆宣言をなさいます。その理由として、思うように書けなくなったことなどを挙げられていますが、それだけではないでしょう。その前に書かれた「小さなマスク」の中で、安倍首相(当時)のコロナ対策について《イッパツ、ドカンとやってくれませんか》という依頼を受けた佐藤さんは、《世間では悪口、批判、文句のたぐいは佐藤愛子の専売と思っているかもしれないが、もはや老耄への道をひた走る佐藤にはそのエネルギーはない》と明かしています。あれしろ、これしろ、ではないこの心境、私はよくわかるんです。佐藤さんより14歳年下ですが、最近はもうヘトヘトですから。

関連キーワード

関連記事

トピックス

「第8回みどりの『わ』交流のつどい」で、受賞者に拍手を送られる佳子さま(2025年12月、共同通信社)
「心を掴まれてしまった」秋篠宮家・佳子さまが海外SNSで“バズ素材”に…子どもとの会話に外国人ユーザーらがウットリ《親しみやすいプリンセス》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ・BLACKPINKのリサ(Instagramより)
《目のやり場に困る》BLACKPINKのリサ、授賞式→アフターパーティの衣装チェンジで魅せた「見せる下着」の華麗な着こなし
NEWSポストセブン
3月末で「FOMAサービス」が終了する
《3月末FOMAサービス終了で大混乱!?》ドコモショップで繰り広げられた「老害の見本市」な光景、店員を困惑させる年配客たち 暗証番号わからず「どうにかして」、説明する店員に「最近の若いヤツは気がきかない」
NEWSポストセブン
「新年祝賀の儀」で彬子さまが着用されていたティアラが話題に(時事通信フォト)
《これまでと明らかに異なるデザイン》彬子さまが着用したティアラが話題に「元佐賀藩主・鍋島家出身の梨本宮伊都子妃ゆかりの品」か 2人には“筆まめ”の共通項も
週刊ポスト
真美子さんが目指す夫婦像とは(共同通信社)
《新婚当時から真美子さんとペアで利用》大谷翔平夫妻がお気に入りの“スポンサーアイテム”…「プライベートでも利用してくれる」企業オファーが殺到する“安心感”の理由
NEWSポストセブン
「講書始の儀」に初出席された悠仁さま(時事通信フォト)
《講書始の儀》悠仁さまが“綺麗な45度の一礼” 「紀子さまの憂慮もあって細かな準備があった」と皇室記者、新年祝賀の儀での秋篠宮さまの所作へのネット投稿も影響か
週刊ポスト
デビットベッカムと妻・ヴィクトリア(時事通信フォト)
〈ベッカム家が抱える“嫁姑問題”の現在〉長男の妻・ニコラがインスタから“ベッカム夫妻”の写真を全削除!「連絡は弁護士を通して」通達も
NEWSポストセブン
ニューヨーク市警に所属する新米女性警官が、会員制ポルノサイトにて、過激なランジェリーを身にまとった姿を投稿していたことが発覚した(Facebookより)
〈尻の割れ目に赤いTバックが…〉新米NY女性警官、“過激SNS”発覚の中身は?「完全に一線を超えている」
NEWSポストセブン
厳しい選挙が予想される現職大臣も(石原宏高・環境相/時事通信フォト)
《総選挙シミュレーション》公明票の動向がカギを握る首都決戦 現職大臣2人に落選危機、高市支持派アピールの丸川珠代氏は「夫とアベック復活」狙う
週刊ポスト
「ゼロ日」で59歳の男性と再婚したと報じられた坂口杏里さんだが…
《3年ぶり2度目のスピード離婚》坂口杏里さんの「ふっくら近影」に心配の声…「膝が痛くて…でもメンタルは安定してます」本人が明かした「59歳会社員との破局の背景」
NEWSポストセブン
笑いだけでなく「ふーん」「ええ!」「あー」といった声が人為的に追加される(イメージ)
《視聴者からクレームも》テレビ番組で多用される「声入れ」 若手スタッフに広がる危機感「時代遅れ」「視聴者をだましている感じがする」
NEWSポストセブン
北海道日高町で店の壁の内側から遺体が見つかった事件。逮捕された松倉俊彦容疑者(49)、被害者の工藤日菜野さん。(左・店舗のSNSより、右・知人提供)
「なんか臭くない?」「生ゴミを捨ててないからだよ」死体遺棄のバーで“明らかな異変”…松倉俊彦容疑者が見せた“不可解な動き”とは【日高・女性看護師死体遺棄】
NEWSポストセブン