A氏は例としてM-1グランプリ優勝のコンビSと炎上系でアイドルのプロデュースも手掛けたお笑いトリオYのメンバーKの名を上げた。とくに後者は知名度やSNSの盛り上がりの割に数字を持っていないという。
「ゴールデン向き、深夜帯向きがあるし、世帯視聴率じゃなくて個人視聴率(コア視聴率)もあるので一概には言えませんが、数字は持ってたほうがいいのは事実です。持ってる芸人に椅子をとられちゃいますからね」
しかし、いまや芸人のリストラは数字だけの話ではないという。
「コンプライアンスの問題ですね、ワイドショーや報道で政治的な発言をするようになりましたから、社会的にアウトな発言はもちろん、昔のような低いモラルで笑いをとるような番組が作りづらくなりました」
過去とはいえ、テレビから消えてもらうしかない
1990年代までのお笑い番組といえば暴力といじめ、ヘイトが「ギャグ」としてある程度許容されていた。しかしいまは違う。2021年、情報番組のネタでアイヌに対する差別用語を使用した芸人が問題になったことは記憶に新しい。それ以前の2019年には大坂なおみ選手をネタに「大坂なおみに必要なものは?」「漂白剤。あの人日焼けしすぎやろ!」と披露した女性コンビがBBCにまで報じられ、国際的な批難を浴びた。同年、「黒人が触ったもの座れるか!」という最悪のネタで問題となった別のお笑いコンビもいた。表現の自由はあるが、メジャーな場や公の場はご遠慮願うしかない、ということだろう。
「アイヌの件はチェックのずさんな番組スタッフも悪いですが、さすがにいま露骨に昔みたいな番組は作れません。芸人さんもそんなことわかってます。でも昔やったこととなると、どうにもならない」
筆者が聞きたかった核心、今回の目的である。急速なコンプライアンスの改善と社会規範の変化、カウンターカルチャーとしての「笑い」というアンモラルと表裏一体にある芸とはいえ、多くの芸人はプロとして対応していくだろう。しかし過去となると消し去ることはできない。
「ネットで遡れる時代になりましたからね。とくに犯罪自慢、いじめ自慢はまずい」