ライフ

「ホームレスの命はどうでもいい」と嘯く人たちの傲慢さと哀しさについて

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて生活困窮者向けに開かれた「なんでも相談会」。お金を失い、家を失いそうな困窮を訴える人が増えている。2020年12月19日(時事通信フォト)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて生活困窮者向けに開かれた「なんでも相談会」。お金を失い、家を失いそうな困窮を訴える人が増えている。2020年12月19日(時事通信フォト)

 2000年代から声高に主張されることが増えた「自己責任論」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の出現によって弱まったかのように見えた。しかし、いまだに振りかざす人たちがいる。お金がなくて苦労していたり、仕事がうまくいかなかったり、家を失うのはその人自身に責任があるから、その人たちの命はどうでもいいというのだ。俳人で著作家の日野百草氏が、ホームレスの人たちとの出会いから、生殺与奪の権を握ったかのような気分で振る舞う傲慢さとその哀しさについて考えた。

 * * *
 これまで、たくさんのホームレスの方々と出会って来た。

 昨年冬、コロナ禍と凍てつくような寒さの東京、彼は裸足で正座したまま頭をコンクリートにこすりつけていた。気温は一桁台だっただろうか、地面にはいくばくかの小銭が置かれている。お金を入れる箱もない上に風が強く、紙幣は置けそうにない。筆者は財布に入った五百円玉を数枚、彼のそばに置いた。行き交う人々に、この行為はどう映っただろうか。「パフォーマンスに騙されて」と思われただろうか、それとも「偽善者が」と思われただろうか。筆者はパフォーマンスに騙されても問題ないし、偽善者でも構わない。もちろん、筆者も立派な人間ではないが、ホームレスの命はどうでもいいとまでは思わない。

「国の世話になるくらいなら死ぬよ」

 別のホームレス男性、笑って缶を潰し続ける。彼は鉄橋の下で暮らし、アルミ缶を集めていた。1日集めれば300円になるという。これが高いか安いかはわからないが、時給にすれば微々たるものかもしれない。

「昔は(1日)1000円くらい稼げたけど、最近は駄目だね。飲み屋も(コロナ禍で)やってないしね」

 こうしたホームレスの方々と接すると、時に怖い思いをすることもあったが、ほとんどの人は話し相手が欲しかったのか気さくに話をしてくれた。若いころ、救世軍の手伝いで炊き出しに参加したことがある。その時も、筆者は彼らホームレスの命をどうでもいいとは思わなかった。むしろ当時はゲーム誌の仕事が減っていたので、そのうち自分も並ぶ側になるだろうと思っていた。こうした命をどうでもいいとも思わなかった。だとすれば自分の命もどうでもよくなってしまう。筆者と彼らの命は、紙一重ではなく同一線上にある。

「女房も息子もいるよ。ただ、ここの生活が気楽なんだ」

 どこまで本当かはわからないが、彼が自分の力で生きていることは確かだ。1日300円の稼ぎでも、彼が1日働いた金だ。自力で生きる命だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン