ライフ

「書くことは私の生活の全てだった」佐藤愛子さんが最後のエッセイ集を上梓

佐藤愛子さん

最後のエッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』を上梓した佐藤愛子さん

 128万部を超える大ベストセラーとなった『九十歳。何がめでたい』の発売から丸5年、佐藤愛子さんの最新&最後のエッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』(女性セブンの連載「毎日が天中殺」を改題)が刊行された。『九十歳。何がめでたい』以上にキレッキレで面白い、との声も上がる話題沸騰の本書は、佐藤さんの断筆宣言も収録した「最後のエッセイ集」になる。この最新刊について、そしてコロナ問題や東京五輪などについても、今秋98歳になる佐藤さんに話を伺った。

 * * *

なんでみんな、あんなに外に出たがるんでしょう

 書籍化にあたって、連載時のタイトル「毎日が天中殺」を『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』と改題した。1969年に第61回直木賞を受賞した『戦いすんで日が暮れて』を連想させるタイトルである。

「これは私の最後のエッセイ集ですから、いろいろ考えて、自分が世に出るきっかけになった『戦いすんで日が暮れて』にちなんだものにしたいと、このタイトルにたどりつきました。もういい加減に、戦いも終わって、日も暮れてほしいけど、なかなか暮れないのよ(笑い)」

 同時に、『九十歳。何がめでたい』を増補した文庫本も出る。90歳を越えて初めて「ベストセラー作家」になったことを、佐藤さん自身はどう受け止めておられるのだろう。

「どうって、特別な感想というものは別にないわね。ああ、そうですか、っていう……。あえて言うなら、『なんで?』でしょうか」

 端然と答える佐藤さんである。

 もともと人気作家なのだが、『九十歳。何がめでたい』の大ヒットは、時ならぬ佐藤愛子ブームを巻き起こした。次々に本が刊行され、佐藤さん自身、愛着があるという短篇「オンバコのトク」が復刊され(『加納大尉夫人/オンバコのトク』)、ムック『佐藤愛子の世界』も出た。

『佐藤愛子の世界』に再掲された直木賞の「受賞のことば」を読むと、「少なくとも九十歳まで生きたい」と書かれている。半世紀前にはおそらく実現不可能だろうと思われた「90歳で現役」という願いを、佐藤さんはかなえてみせた。

「読み返して、『つまんないことを言ったもんだな』と思いましたよ(笑い)。この頃になってつくづく思うんですけど、書くっていうことは、もう私の生活の全てだったんです。

 朝目覚めたときに、いま書いているもののことがパッと頭に浮かんで、布団の中で1時間ぐらいいろいろ考えて、さあ、その線で行こうと思いついて、意気込んで起き出す。活気がありましたね。書かなくなったら、起きたって何もすることがないから、じゃあ寝てようか、ってなりますよ。

 いまだって、オリンピックについても、コロナの問題についても、気にはなります。オリンピックはやらない方がよかったですし、感染者がどうしてあんなにいまも増えているのか知りたい。でも、なんでみんな、あんなに外に出たがるんでしょう。私の育った時代には、やたらに表へ出る人は悪口言われたもんですけどね。それも、もう書くことはないと思うと、いろんな問題を深く考えず、そのままスルーしちゃうんです。

 退屈なら書けばいいじゃないか、と言われますけど、机に向かって万年筆を持ち、最初の1行を書くというのが、もう大ごとなんですよ。昔は、座るとすぐ頭に何か浮かんで、さっと入れたんですけどね。これは肉体の衰え、生理的な衰退ですから、いくら意思の力で奮い起こそうとしてもダメ。老いるというのは、そういうことだと思います」

 小説『晩鐘』が出て取材した6年前、佐藤さんはたしか、「人工的な街に変わって、それまでの東京ではなくなりそうで、次のオリンピックは見たくない」と言っておられた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

かつて不倫で注目を集めた東出昌大が松本花林と再婚(時事通信フォト)
《東出昌大に急接近の新妻・松本花林》一定の距離感保った女優仲間3人の“暗黙の了解”が崩れた「6月事件」
NEWSポストセブン
会合を終えた小泉純一郎氏と、武部勤。元幹事長(左)、山崎拓・元自民党副総裁(右)ら小泉政権を支えた重鎮OBたち(5月14日)
【小泉進次郎氏の総裁選出馬】「50歳までは出馬禁止」と語っていた父・純一郎氏の心境が変化した森元首相らとの会合 同席した田原総一朗氏が明かす「内幕」
週刊ポスト
岡田将生の沼にどっぷりハマった魅力とは?
《『虎に翼』で航一さん役を好演》岡田将生のあふれる魅力 約20年で「選ばれる俳優」の筆頭へと飛躍
女性セブン
連ドラの主演を2クール連続で務める松本若菜
【まさに“代打の女神さま”】松本若菜、“別の女優が急きょ降板”で10月ドラマで2クール連続主演 『西園寺さん』も企画段階では違う大物女優が主演の予定だった
女性セブン
わずか2週間の間に同じ人物の豪邸企画が、フジテレビとTBSで相次ぎ放送される事態に…(時事通信フォト)
今秋終了の『ジョンソン』『オドハラ』“にしたん豪邸企画”で丸かぶり!TV局が抱える切実な事情
NEWSポストセブン
33年ぶりに唐沢寿明が鈴木保奈美と共演する
【地上波ドラマでは『愛という名のもとに』以来33年ぶり】唐沢寿明、2025年1月期で4年ぶり民放連ドラ主演、共演は鈴木保奈美 テレ朝は大きな期待
女性セブン
NHKの山内泉アナ
《極秘結婚していたNHK山内泉アナ》ギャップ感あふれるボーイッシュ私服は約9000円のオシャレブランド お相手は慶応同級生…大学時代から培った「ビビットな感性」
NEWSポストセブン
不同意わいせつ容疑で書類送検された山口晋衆院議員(Facebookより)
《不同意わいせつ容疑で書類送検》自民・山口晋議員、エレベーター内キス目撃した20代女性の母親に「ガス会社の社員」を名乗った理由
NEWSポストセブン
長澤まさみ
松本潤、野田秀樹氏の舞台で共演する長澤まさみを“別宅”に招いて打ち上げを開いた夜 私生活では距離があった2人がお互いを高め合う関係に
女性セブン
三田寛子がSNSに載せた初めてのツーショットの真相
《三田寛子の誕生日ツーショット》実は「バースデー当日の写真ではない」疑惑が浮上 中村芝翫は愛人と同棲する家へ直行していた
NEWSポストセブン
妻とみられる女性とともに買い物に出かけていた水原元通訳
《買い出しツーショット》水原一平被告が痩せてロン毛に…購入した「米とビール」にみる現状の生活
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 小泉純一郎と滝クリの自民党総裁選ほか
「週刊ポスト」本日発売! 小泉純一郎と滝クリの自民党総裁選ほか
NEWSポストセブン