ライフ

【書評】『土偶を読む』人文知と情報論的知の対話の可能性を持つ貴重な試み

『土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎』著・竹倉史人

『土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎』著・竹倉史人

【書評】『土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎』/竹倉史人・著/晶文社/1870円
【評者】大塚英志(まんが原作者)

 考古学や縄文研究の非アカデミシャンによって書かれた本書の憤る、アカデミズムのいやらしいほどの排他性を著者以上に身を以て日々経験している身としては、その正当性に限れば誰より深く同意する。しかし本書を実際に読んでみるとそこにあるのは在野VSアカデミズムだけでなく、人文知と情報論的知の乖離という、もう一つの問題ではないか、とも感じた。

 本書へのアカデミズムの側の批判として説得力を持つのは土偶のモチーフの変遷、つまりその様式がいかなるプロセスで成立してきたかという考古学の蓄積が無視されている点だ。

 デザイン的に「シンプルな造形」を任意に「原型」を設定することは、AIの研究者などがローデータを入力するための枝葉を落とし整理する手続きにそれこそ「似て」いる。カタチをデジタル的直感でとらえる著者の知や論理性の精緻さはどこまで意図されたものかわからないが、近頃のぼくが情報系の人々と意図的に対話することで日々感じとろうとしている「違和」に近い。

 わざわざそんなことをするのは、この二つの「知」というか、言葉や思考がもう少し対話可能でないとちょっとまずいよね、というのが個人的な危機感で、その意味では本書はその貴重な試みとして貴重なのだが、元は神話の人類学的研究から始め、今どき(皮肉ではなく)柳田國男やフレイザーや坪井正五郎といった始まりの人文科学に言及もできる若者の研究はもっと深い人文知と情報知の対話の可能性を持つはずだ。

 自然のフォルムと美しく相似しない部分(例えばカモメライン土偶と著者が呼ぶ様式の左右非対称の目など柳田の供犠論を連想もする)が剥離され、それ故、見た目の整合性とは別に抜け落ちた意味はないのか。

 こういった変遷や形の枝葉への潔さは、縄文の人と今の私たちの感じ方が「同じ」だとする考えに一挙に飛躍し(そこに感動を覚える評者も事実いる)、それは一つ間違うと思考の万世一系とでもいうべき危うい日本人論に利用されかねず、そこに幾ばくかの危惧がある。

※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号

関連記事

トピックス

政治資金の使途について藤田文武共同代表はどう答えるか(時事通信)
《政治資金で使われた赤坂キャバクラは新規60分4000円》維新・奥下議員が訪れたリーズナブルなキャバの店内は…? 「モダンな内装に個室もなく…」 コロナ5類引き下げ前のタイミング
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
神奈川県藤沢市宮原地区にモスクが建設されることが判明した(左の写真はサンプルです)
《イスラム教モスク建設で大騒動》荒れる神奈川県藤沢市 SNSでは「土葬もされる」と虚偽情報も拡散 市議会には多くの反対陳情が
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《バリ島でへそ出しトップスで若者と密着》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)が現地警察に拘束されていた【海外メディアが一斉に報じる】
NEWSポストセブン
いまだ“会食ゼロ”だという
「働いて働いて…」を地で行く高市早苗首相、首相就任後の生活は“寝ない”“食べない”“電話出ない” 食事や睡眠を削って猛勉強、激ヤセぶりに周囲は心配
女性セブン
大谷が語った「遠征に行きたくない」の真意とは
《真美子さんとのリラックス空間》大谷翔平が「遠征に行きたくない」と語る“自宅の心地よさ”…外食はほとんどせず、自宅で節目に味わっていた「和の味覚」
NEWSポストセブン
逮捕された村上迦楼羅容疑者(時事通信フォト)
《闇バイト強盗事件・指示役の“素顔”》「不動産で儲かった」湾岸タワマンに住み、地下アイドルの推し活で浪費…“金髪巻き髪ギャル”に夢中
NEWSポストセブン
「武蔵陵墓地」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年12月3日、撮影/JMPA)
《曾祖父母へご報告》グレーのロングドレスで参拝された愛子さま クローバーリーフカラー&Aラインシルエットのジャケットでフェミニンさも
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《約200枚の写真が一斉に》米・エプスタイン事件、未成年少女ら人身売買の“現場資料”を下院監視委員会が公開 「顧客リスト」開示に向けて前進か
NEWSポストセブン
指示役として逮捕された村上迦楼羅容疑者
「腹を蹴れ」「指を折れ」闇バイト主犯格逮捕で明るみに…首都圏18連続強盗事件の“恐怖の犯行実態”〈一回で儲かる仕事 あります〉TikTokフォロワー5万人の“20代主犯格”も
NEWSポストセブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《広瀬すずのぴったりレギンスも話題に》「アスレジャー」ファッション 世界的に流行でも「不適切」「不快感」とネガティブな反応をする人たちの心理
NEWSポストセブン
2018年、女優・木南晴夏と結婚した玉木宏
《ムキムキの腕で支える子育て》第2子誕生の玉木宏、妻・木南晴夏との休日で見せていた「全力パパ」の顔 ママチャリは自らチョイス
NEWSポストセブン