がん患者にとって「ステージ4」という宣告は、「これ以上の治療ができない状態」のように感じるかもしれない。しかし、海外には日本では承認されていない最先端の治療法があり、一縷の望みを託して海を渡る人もいる。俳優の西郷輝彦(74才)も日本を離れ、治療に臨んでいた──。
青く澄んだ空の下、シドニーの空港に日本からの旅客機が舞い降りた。新型コロナウイルスの影響か、空港は閑散としている。健康チェックを受け、バスに乗せられてホテルへ。14日間の隔離生活の始まりだ。バスの中は緊張した空気が張り詰めているが、1人の日本人男性の目には、強い力が宿っていた──。
4月末、オーストラリア・シドニーに降り立ったのは俳優の西郷輝彦だ。この日から3か月、彼は命をかけた治療に挑むことになる。
「私のがんが消えた、画像をこの目で見たんです! 消えたんです」──8月22日、『24時間テレビ44 想い〜世界は、きっと変わる。』(日本テレビ系)に出演し、こう喜ぶ西郷の姿を目にし、安堵した人も多いだろう。
彼に最初の前立腺がんが見つかったのは、2011年のことだった。当時は病気を公表することなく、極秘のうちに前立腺を全摘出する手術を受けた。それから6年後の2017年11月に再発が発覚。背中に激痛が走り、すぐさま検査をしたところ、医師から告げられたのは「骨へのがん転移」。舞台の降板を余儀なくされた。
あまりの進行の速さに、当時、主治医は緩和ケアをすすめたが、西郷は完治を諦めず、積極的な治療を選んだ。その日々は、決して穏やかなものではなかった。
《去年中に抗がん剤を2本投与しました。打った後は間違いなく医師の予測通りのことが起こります。昨日まで何ともなかった髪が次の日にドッサリと抜けて、、、》(2018年1月に更新したブログより)
それでも、2019年にはドラマ『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)に出演。大泉洋(48才)が演じる主人公が勤める自動車メーカーの社長を好演した。
このまま、がんの進行を抑えながら、俳優として仕事も続けられるのではないか――闘病を知る誰もが11回にわたる放射線治療や抗がん剤の投与の効果を期待した。
しかし、運命とは残酷なものだ。今年の春、医師からがんが進行していることを告げられた。進行度は「ステージ4」。「PSA(前立腺特異抗原)」という腫瘍マーカーの数値も一気に増えていた。西郷は落胆を隠さなかった。
「突然上昇したPSAなんですよ。だってね、たかが3か4だったのがですよ? ある日325に上がったんです」(西郷のYouTubeより)