東京五輪・体操女子個人総合の試合後のインタビューで、SNSでの誹謗(ひぼう)中傷に関する記者の質問に、自身の体験を訴えた村上茉愛(時事通信フォト)

東京五輪・体操女子個人総合の試合後のインタビューで、SNSでの誹謗(ひぼう)中傷に関する記者の質問に、自身の体験を訴えた村上茉愛(時事通信フォト)

 リアルで満たされない承認欲求がネットで満たされる、それは有名無名関係ないだろうが、リアルがあまりに危うい時期に溺れてしまうと抜け出せなくなる。ネット屋も商売、ソシャゲ屋もそうだが、それを承知で溺死者を出さない程度に承認欲求のプールに浸かってもらい、依存するよう仕向けている。それでも人によっては救われる面もある。

「でも、まさか訴えられるとは思いませんでしたけどね」

 厳密に言うと青井さんは訴えられる前に和解しているしSNS興隆以前の話である。それでも、かつて拙ルポ『「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白』でも言及したが、ネットで誹謗中傷をしていたと告白してくれる存在は貴重である。

「相手は10代のグラビアアイドルとその事務所です」

 そのころの青井さんはラノベやゲームと同時に10代の少女、とくに中高生のグラドルにハマっていた。

「でも当時の(飲食店の)バイトなんて辞めさせられたりしませんでしたよ。わざわざ言わなきゃ誰もわかんないですから。その辺の人なんて、みんなそうだと思います」

 木村花さんの事件もそうだが、一般人が中傷犯なら名前も出なければ有名人ほどに露骨な社会的制裁を受けることはまずない。多くは話題にすらならないだろう。

自分だけじゃなく、他にもアンチはいましたから

 青井さんは開き直っているわけではない。筆者が知る限りでも、一般の社会人でネットの誹謗中傷で訴えられて会社を辞めさせられた、地域にいられなくなったなんて話はない。みんな粛々と、何食わぬ顔で学校に行ったり働いたりしている。ましてや事情で働いていない人、引きこもりやニートはもちろん引退世代の高齢者なら訴えられたところで屁でもない。

「和解といっても金銭はわずかで、彼女に対して誹謗中傷はしないという約束が主です。命どころか仕事をとられることもないです。やったもん勝ちですね」

 有名人はもちろん、ネットのインフルエンサーなど、それなりに影響力があるから誹謗だ中傷だと話題になるだけであって、多くの無名の一般人なら現実には訴えられたところで大したことはないし、面倒だろうがそれだけ、というのが青井さんの感想だという。

「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。それをうっかりリアルでしゃべったことも。最初はファンだったんですけどね」

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