――誹謗中傷をしている人たちに先達として忠告することはあるか。
「自分自身が幸せになればやめられると思う。ずっと不幸な人はわからない」
――かつての加害者として誹謗中傷をされている人たちにアドバイスはあるか。
「気にしないこと。それしかない。相手が名無しの一般人ならそれしかないと思う。訴えるのは自由だが実利は薄いと思う。罰則を厳しくしない国が悪い。法律の問題だと思う」
このような問答となったが、人それぞれに読み取れる部分は多いだろう。もちろん彼一人のサンプル、これがすべてと言わないが、多くの誹謗中傷側の感覚はお気軽なもので、自覚なしに追い詰める事例が大半のように思う。だからこそやっかいなのだ。いじめという名の犯罪行為同様、受けた側の傷に比べてあまりに軽い。拍子抜けするほどに。そして青井さんの言う「その辺の一般人」かつ無敵の人、それに準じるような人の場合、訴えたところで直接的な効果は薄い。裁判が終わってほとぼり冷めたらまた繰り返す危険人物すらいる。
中国の信用スコア、社会信用システムのようなディストピアは勘弁だが、それがコロナ禍の統制含め有効なのではという話もある。日本は憲法上そこまでできないし表現の自由との兼ね合いもあるが、被害者の苦しみを考えれば、さらなる開示の容易化と刑法の厳罰化の方向に進むのもまた現実だろう。
取材中、青井さんから謝罪の言葉は出なかった。これもまた現実だ。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。