『ムショぼけ』著者の沖田臥竜さん(右)と、同作をドラマ化した藤井道人監督

『ムショぼけ』著者の沖田臥竜さん(右)と、同作をドラマ化した藤井道人監督

 著者の沖田さんは、元ヤクザ最高幹部という異色の経歴を持つ。自身の12年に渡る刑務所暮らしと、そこから出所したときの世の中との隔世の戸惑いが、作品の重要な題材の1つとなっている。そんな2人が語り合った。

沖田:いまの時代は、とにかく変化のスピードが早い。ケータイの機能だって、1年でずいぶんと進歩するでしょう? 想像してもらえればわかると思いますが、今日まで家の電話やガラケーを使ってきたのに、明日いきなりスマホを使え、ツイッターをやれ、インスタを見ろ、となったらどうですか。当然、戸惑うと思いますが、ケータイだけじゃなくて、それが生活すべてにわたるわけです。1年も社会に不在やったら浦島太郎状態やと思いますが、それが10年以上やったら、そりゃ、“ムショぼけ”にもなりますよ。

藤井:精神面の戸惑いもあるんじゃないですか。

沖田:刑務所に入った時から、時間が止まる。つまり、感情も記憶も“止まったまま”なんです。誰かに恨みがあるなら、ムショでは毎晩、毎晩ずっと恨み続けてる。『ムショぼけ』の主人公ならば、自分を裏切った組幹部を14年間毎日、呪い続けたわけです。

 もし誰かに恋してるなら、ずーっと好きなまま。考えれば考えるほど、気持ちは強くなっていきます。

 出所後、その感情のまま当人や周囲に接すると、『いまさら何年前のことを言うんや、ボケてんのか』と呆れられてしまう。ムショ暮らしの人間が必ず経験するギャップですね。

藤井:時間の流れ方が全然違うわけですか。それは、悲しいかな、刑務所には必要以上に情報が入ってこないからこそですね。この情報過多の現代のネット社会のなかで、塀のなかというのは“ピュアな場所”なのかもしれませんね。

沖田:テレビを見たり、ラジオを聞いたりはするから、意外と流行は追えてます。でも、限界はあるよね。それに、やることがほかにないから、字がうまくなったりと、予想外のところが成長したりもする。でも、感情は変わらぬままなんです。

 もし子どもがいたら、子どもへの愛情も止まるわけです。小説の主人公は、幼い子供を残して服役しました。主人公の頭のなかでは、子どもはずっと小さい頃のまま。でも実際には小学生になり、中学生、高校生、大学生になって、もう大人になっている。子どもへの愛情も、頭のなかで膨らむだけ、膨らんでくんですよ。

藤井:“感情が止まる場所”というのは、いまの日本の世の中では、ひょっとして刑務所のなかぐらいじゃないでしょうか。

──酸いも甘いも知る沖田さんの描いた作品だからこそ、妙なリアル感が浮き上がってくる。

長く刑務所にいると「ムショぼけ」するという((C)ABC)

長く刑務所にいると「ムショぼけ」するという((C)ABC)

関連キーワード

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
山下智久と赤西仁。赤西は昨年末、離婚も公表した
山下智久が赤西仁らに続いてCM出演へ 元ジャニーズの連続起用に「一括りにされているみたい」とモヤモヤ、過去には“絶交”事件も 
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン