実に間抜けな質問だ。そんなこと、誰かがとっくに伝えていると思っていたのだろう。救急隊員は苦笑いして病院名を答えた。大阪市内で有数の公立総合病院だ。ちぐはぐな対応を象徴する一件だった。
入院後に劇的に症状が改善
病院に着いて真っ先に行われたのはCTとX線の画像検査。感染したと診断されてから初めてだ。画像を見て医師は告げた。
「肺の半分が真っ白になっています。肺炎を起こしていますよ。相澤さん、良かったですね、間に合って」
どうやら僕はギリギリのところでこの病院に滑り込んだようだ。この病院は、10階のワンフロア全体がコロナ閉鎖病棟になっている。僕は入院当初、酸素吸入器のある個室に入った。病室を訪れるのは主に看護師で、感染防御のフル装備を身に着けている。看護師が現場の負担を一身に背負っていると感じた。
医師は日に1回姿を見せ、検査結果などを元に見通しを話してくれる。周囲の病室で患者の容体が悪化している気配が伝わってくるので、自分はどうなるのか最初は不安だった。
だが、入院を境に僕の症状はみるみる快方に向かった。ホテルではまったくとることができなかった食事を少しずつとれるようになった。幸い、コロナでよく言われる味覚障害は現われなかったので、味もきちんとわかった。
実際に医療を受けられたことはもちろん、「いつでも診てもらえる」という安心感が大きかったのだろう。その安心感が回復につながったと思う。入院2日目には早くも医師が「このまま症状が改善すれば1週間くらいで退院できますよ」と楽観的な見通しを示してくれた。3日目には酸素吸入器のある個室を出て4人部屋に移った。
そして5日目、想像以上に早く、医師から退院の許可が出た。あまりに急なことで驚いたが、先の仕事を考えるともちろん望むところだ。後で知ったことだが、この病院は重症患者の受け入れ施設と位置付けられている。僕が入院した時は、人工呼吸器が必要な重症患者になると見られたから、ここに搬送されたのだろう。実際には入院後に劇的に症状が改善したので、他の重症患者を受け入れるためにも早々に退院という判断になったと思われる。専門医によると、普通は2週間から4週間、短くても10日前後は入院するそうだ。
退院の際、一番気になったのは、退院後に他の人に感染させる恐れはないのかという懸念だった。それに医師は「発症からの日数を考えるとその心配はありません」と太鼓判を押してくれた。