琵琶湖を抱える滋賀県大津市で開催された第27回大会(2007年)では、上皇陛下の「ブルーギルは50年近く前、私が米国より持ち帰りました」「いま、このような結果になったことに心を痛めています」というご発言が話題となった。
ブルーギルは、いまでこそ生態系を荒らす外来魚として知られているが、当時は食用魚として有望視されていた。
「1960年、上皇陛下はシカゴ市長から贈られたブルーギルを日本に持ち帰り、水産庁の研究所に寄贈されました。上皇陛下が持ち帰った魚が繁殖を続けたのかは未確認ですが、外来魚に悩まされる漁師たちを心配され、“謝罪発言”をされた上皇陛下の誠実さは聴衆の心を打ちました」(皇室ジャーナリスト)
上皇ご夫妻は、御代がわり前の高知県で開催された第38回大会(2018年)まで大会にご臨席され、全国の漁業関係者を励まされた。
アマモは海のゆりかご
漁業の振興と発展を図る海づくり大会にとって、ひとつの転機となったのが、香川県で開催された第24回大会(2004年)だった。
水産庁関係者が『都会の里海 東京湾 人・文化・生き物』の著者で海洋環境専門家の木村尚さんのもとを訪れた。
「どのようなものを放流したらいいか、というご相談でした。私は、『稚魚を放流しても、魚が育って増えていくとは限らないので、アマモを育てて、魚が育つ環境を整えることが大切です』とお伝えし、海づくり大会で天皇陛下が子供らにアマモをお手渡しするアイディアを提案しました」(木村さん)
「アマモ」は、水のきれいな浅い海の砂地に生える海草の一種だ。海中で花を咲かせて種子によって繁殖する。
「アマモは太陽光を浴びて二酸化炭素を吸収し、酸素を放出します。同時に海底から窒素やリンなどの栄養も吸収し、海の環境を守る大切な役割を果たします。アマモが群落になっている場所(アマモ場)は、メバルやマダイなどさまざまな種類の稚魚が育つ絶好の場として知られ、『海のゆりかご』と呼ばれます。
しかし、埋め立てが進み、浅い海が減った現在は、アマモ場が姿を消しつつあり、大きな問題になっています」(木村さん)
豊かな水産資源を育てるには、「海のゆりかご」が必要―木村さんの提言は関係者に受け入れられ、天皇陛下が子供たちにアマモの苗を手渡されることとなった。
2011年、天皇陛下(当時)の葉山御用邸静養中に、木村さんはアマモについて両陛下と懇談する機会を得た。
「私は頭が真っ白になってしまって陛下とどんな会話をしたのか覚えていませんが、上皇后さまが『陛下はアマモに関して真剣に取り組んでくださっています』と仰せられたことは覚えています。うれしかったですね」(木村さん)