「『普段あまり本を読まない10代の方々には、いわゆるライト文芸が向いているんじゃないか』と考えて、初期の頃は、表紙にイラストをあしらった小説を“読みやすさ”を重視してアピールすることが多かったです。僕はもともと少し物騒なジャンルを読むことが多いのですが(笑)、試しにジャック・ケッチャムさんや小林泰三さんの作品を紹介したところ、『こういう小説をもっと知りたい』という要望がたくさん寄せられました。
そこで『紹介の仕方さえ良ければ、ちゃんと反響は生まれる。バズらないジャンルなんてないんだ』と気づき、あまり作品のテイストは気にせず、素直に紹介したいと感じた作品を紹介するスタイルへと変わりました。
大変光栄なことに『残像に口紅を』は、僕が紹介してから8.5万部増刷されたそうです。筒井康隆さんは偉大な作家ですが、やはり30年以上前の作品となると、かなりの読書好きでないと若い世代には馴染みがないのではないかと思います。それでも上手く紹介することができれば、ちゃんと若者にだって届くし、数字という結果にも表れるんです」(けんご氏)
けんご氏はキャリアの浅い作家の作品も紹介して、結果として重版に繋がったこともある。ジャンルや知名度は関係ない。作品の魅力がしっかり伝わるように紹介できれば、普段読書をしない人にだって興味を持ってもらえる。そんな信念のもと、けんご氏は、時には「推し」などの流行り言葉も使って、若者目線での作品紹介を続ける。先述の『残像に口紅を』を取り上げたときは、「世界から言葉がひとつずつ消える」という実験的な設定に加え、「切なさ」もアピールしたのが、彼流の紹介の仕方だ。
小説を紹介する上で、重版は常に意識している目標だ。業界全体を盛り上げ、読書好きを増やす。その壮大なビジョンのために、けんご氏はTikTok以外にも活動を広げていくことを考えている。最後にけんご氏が考える小説の魅力とは何だろうか?
「漫画やアニメの登場人物は、名前を聞いたら誰もが同じイメージを思い浮かべるでしょうが、小説だとそうはいきません。同じ小説を読んでも、100人いれば100通りのイメージを持ちます。『自分の想像力を使わなければいけない』というのが、小説ならではの面白さだと感じています」(けんご氏)
◆取材・文/原田イチボ(HEW)