その3分後、本当にチャンスがやってくる。吉田麻也からのロングボールを途中出場の浅野拓磨が見事なトラップでペナルティエリア内にボールを持ち込む。すると、松木氏が「さあ、打て!」と絶叫。まるでその言葉が聞こえたかのように、浅野が左足を振り抜くと、ボールはゴールへと吸い込まれていった。松木氏は寺川アナより先に「入った!!入った!!」と実況し、「はっはっ! よしよし、よしよし!」と喜んだ。VTRを見た寺川アナは「最後の跳ね返ったところ、相手のベヒッチに当たってゴールネットが揺れたというような形でした」と丁寧に説明した後、こう言った。
アナ:ただ形はどうあれ、松木さん。この時間帯に勝ち越しました。
松木氏:形なんかどうでもいいよ!!
中田浩二氏:はっは。
松木氏:ホントに。だってあれは狙ったシュートだからさ!
結果が全ての最終予選では「形なんかどうでもいいよ!!」なのだ。後半44分には相手のパスがそのまますり抜けてゴールキックになると、「いいんだ、いいんだ、これでいいんだ、ううん!!」と納得。「とにかく面倒くさいボール(※曖昧なパスはしないという意味か)は辞めるってことだね。ホント、はっきりしたボールだね。蹴り出すのか」と注意点を挙げた。そして、寺川アナより先に「なに? 4分あるんだ」と怪訝そうにアディショナルタイムに反応した。
その1分後、前述の「そんなの誰が言ったの?」という言葉が飛び出たのだ。つまり、アディショナルタイムが存在しなければ、松木氏のジンクスを蹴散らす名言は生まれなかったのである。試合終了のホイッスルが鳴ると、松木氏はこう叫んだ。
アナ:松木さん、勝ちました。
松木氏:強いよ! 良かったよ!
アナ:(吹き出すように)良かったですね(笑)。
中田氏:良かったですね。
松木氏:みんな良かった!
勝った日本の選手同士が握手を交わし、ベンチ近くに戻って円陣を組んだ。選手に言葉を掛ける森保一監督のアップが映し出された時、松木氏はまるで森保監督にセリフを当てるかのようにこう言った。
「残り6試合でしょ? 6試合。6試合頑張りゃいいんだよ、こうやって! なあ!」
オーストラリアに勝ったものの、日本の劣勢はまだ続く。そんな時こそ、ジンクスや数字のことなんか考えずに、「6試合頑張りゃいい」。やはり、日本には松木安太郎氏が必要なのである。
■文/岡野誠:ライター、松木安太郎研究家。NEWSポストセブン掲載の〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉(2019年2月)が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞を受賞。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では本人へのインタビュー、野村宏伸など関係者への取材などを通じて、人気絶頂から事務所独立、苦境、現在の復活まで熱のこもった筆致で描き出した。