読者を欺くにはまず自分から

 札幌からは網走、釧路と流れ、女将が何も聞かずに雇ってくれた炉端焼き屋では生方らが踏み込む直前に脱出。その後も能力を全て駆使して逃げ回る麻美には、確かに相応の決意や目的があるはずだ。

 ちなみに本作ではその目的も名倉殺しの真犯人も最後まで明かされず、なぜ麻美が葬儀場から逃げたのかも曖昧なまま物語は進む。仮に無実の罪から逃れるためだとしても、それだけでここまでの執念を持てるものだろうか。

「確かに自分のために逃げた部分もなくはない。ただ僕は彼女にもっと社会的で個人を超えた使命感を持ってほしかったし、特に今はそういうジェンダーレスで視野の広いヒロインが求められていると思うんです。

 その使命が何かはネタバレになるので言えませんが、要はモリカケでも何でも、我々は真相がさして追及もされないまま闇に葬られ、あらゆるモヤモヤがモヤモヤなまま蓋をされる現実に慣れ過ぎちゃいないかと。

 本書の生方も事件の背景を徹底的に暴くところまでは結局いけずにいる。それは現場の一刑事に解決できるような問題じゃないからで、巨大なモヤモヤは実在し、真相が100%明らかになることはないけれど、そのとば口までは行けるはず。モヤモヤが当然だといって諦めずに、突き詰めようとすることが大事なんです」

 その成果を1つ1つ形にし、社会的に共有するしかない以上、小説や虚構にもできることはあるはずだと。

「延々説明されたらウンザリするような問題にさりげなく気づかせたり、本来は謹慎でも仕方ない生方たちをあえてとことん追わせ、清張作品みたいな昭和タイプの旅する刑事を、小説でなら書くこともできる。

 僕自身は鉄チャンではないどころか、あまり鉄道には興味がない。でも、旅そのものは好きなので、麻美の逃走ルートは一通り取材しましたし、この通り逃げようと思ったら本当に逃げられるようには書いたつもりです(笑)」

関連記事

トピックス

全米野球記者協会ニューヨーク支部主催のアワードディナーに出席した大谷翔平と、妻・真美子さん(左/時事通信フォト、右/提供:soya0801_mlb)
《真美子さんが座る椅子の背もたれに腕を回し…》大谷翔平が信頼して妻を託す“日系通訳”の素性 “VIPルーム観戦にも同席”“距離が近い”
NEWSポストセブン
司法省がアンドリュー元王子の写真を公開した(写真/Getty Images)
《白シャツ女性に覆いかぶさるように…》エプスタイン・ファイルで新公開されたアンドリュー元王子とみられる人物の“近すぎる距離感の写真” 女性の体を触るカットも
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
【2・8総選挙「大阪1〜10区」の最新情勢】維新離党の前職が出た2区、維新前職vs自民元職vs野党候補の5区で「公明党票」はどう動くか
NEWSポストセブン
なぜ実の姉を自宅で監禁できたのか──
《“お前の足を切って渡すから足を出せ”50代姉を監禁・暴行》「インターホンを押しても出ない」「高級外車が2台」市川陽崇・奈美容疑者夫妻 “恐怖の二世帯住宅”への近隣証言
NEWSポストセブン
東京拘置所(時事通信フォト)
〈今年も一年、生きのびることができました〉前橋スナック銃乱射・小日向将人死刑囚が見せていた最後の姿「顔が腫れぼったく、精神も肉体もボロボロ」《死刑確定後16年で獄中死》
NEWSポストセブン
間違いだらけの議事録は「AIのせい」(写真提供/イメージマート)
《何でもAIに頼る人たち》会社員女性が告白「ケンカの後、彼から送られてきた”彼女の方が悪い”とAIが回答したスクショ」ほどなく破局
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
国際ジャーナリスト・落合信彦氏が予見していた「アメリカが世界の警察官をやめる」「プーチン大統領暴走」の時代 世界の“悪夢”をここまで見通していた
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト、2025年10月15日)
《頬がこけているようにも見える》高市早苗首相、働きぶりに心配の声「“休むのは甘え”のような感覚が拭えないのでは」【「働いて働いて」のルーツは元警察官の母親】 
NEWSポストセブン
ジェンダーレスモデルの井手上漠(23)
井手上漠(23)が港区・六本木のラウンジ店に出勤して「役作り」の現在…事務所が明かしたプロ意識と切り開く新境地
NEWSポストセブン
元日に結婚を発表した女優の長澤まさみ(時事通信フォト)
長澤まさみ「カナダ同伴」を決断させた「大親友女優」の存在…『SHOGUN』監督夫との新婚生活は“最高の環境”
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
【訃報】国際ジャーナリスト・落合信彦氏が死去、84歳 独自の視点で国際政治・諜報の世界を活写 
NEWSポストセブン
薬物で急死した中国人インフルエンサー紅紅(左)と交際相手の林子晨容疑者(右)(インスタグラムより)
「口に靴下を詰め、カーテンで手を縛り付けて…」「意識不明の姿をハイ状態で撮影」中国人美女インフルエンサー(26)が薬物で急死、交際相手の男の“謎めいた行動”
NEWSポストセブン