敬愛する大先輩──女優・南果歩(57才)は瀬戸内寂聴さん(享年99)を長年慕ってきた。時に叱られ、時に愛のある言葉をもらい、そして一緒に笑いあった寂聴さんと南。26年もの時間を共にする中で、いまでも忘れられないという寂聴さんが南に託した言葉の数々と、最後の約束──。
その日、女優・南果歩(57才)は、米・ニューヨークで衝撃的な知らせを聞いた。“先生”と呼び、敬愛してやまないあの人が、静かに旅立ったことを──。
「ニューヨークで少し仕事があり、それを終えた後、勉強のためにブロードウェーの舞台を観るためにそのまま滞在しています。
寂聴先生の訃報を聞いたのは、その日、舞台を2本観た後、宿に戻った直後でした。あまりのショックに頭が真っ白になり、一晩中泣きあかして、外に出られる状態ではありませんでした。でも、そのままひとりで部屋にいてはいけないと感じ、『ティナ』という舞台を観に行ったんです。
世界的歌手であるティナ・ターナーさんの人生を描いた作品で、小さな町の少女が、人種や年齢、ジェンダーなどの既成概念にとらわれず自分で自分を育て、スターの座に上り詰める物語。観ながら先生の人生を思わずにはいられませんでした。先生も51才で“瀬戸内晴美”から“瀬戸内寂聴”になられて、ご自身の人生を切り拓かれた。私もそうありたい、そうしなければならないって強く思えました」(南・以下同)
11月9日、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが世を去った。大正、昭和、平成、令和と4つの時代を生き、99才の大往生だった。その寂聴さんと南は、長年にわたり親交がある。2度の離婚や病気など度重なる窮地を乗り越えてきた南だが、その裏には常に寂聴さんの存在があった。泣きはらした真っ赤な目で、時折言葉に詰まりながらも、寂聴さんとの26年にわたる交流について南は静かに語り始めた。
「振り返ってみると本当に先生のおっしゃる通り」
寂聴さんと南の交流が始まったのは1995年。きっかけは、寂聴さんが開いている京都の寺院「寂庵」をまだ幼い息子を連れた南が訪れたのがきっかけだった。
「それから、先生の誕生日である5月15日には、定期的に寂庵を訪れるようになりました。お会いするたびに『あなたいくつになったんだっけ?』とお聞きになるので『今年〇才です』と答えると『あなた、これからよ。これから人生が面白いわよ』っておっしゃるんです。その言葉にいつも励まされていました。
『人間、いい顔ばかりして生きられないわよね』って言ってくださるので、先生には素の自分を見せられる。ほかの人には言えない本音を吐き出して、先生のユーモアあふれるお言葉に最後には笑ってしまい、あっという間に時間が過ぎていくんです」