なぜ「横切って」なのか。それは同系に分類される日本語、韓国・朝鮮語、ツングース語(満州語など)、モンゴル語、チュルク語(トルコ系諸言語)の話し手が、東は日本列島・カムチャツカ半島から西は小アジア・バルカン半島南端まで、ユーラシア大陸を横断する形に広く分布していることに由来する。
トランスユーラシア語族の言語は、原則として主語、目的語、述語の順であること、接続詞と関係代名詞をもたず、修飾語が名詞の前に来ることなどを大きな特徴とし、同語族に分類される言語は98を数える。同語族自体が、いつ、どこで、どのような環境下で生まれたかについては、さしたる根拠もないまま、4000年前の中央アジアの遊牧民とする説が、定説のごとく受け止められてきた。
ときに新説が提示されることがあっても、それで議論が深まることも、定説が塗り替えられることもなかった。言語学と考古学、人骨から得られる遺伝子を元にした古遺伝学の3分野が別個の歩みを続け、互いの利点を活かしあう方法が見いだせずにいたからである。
ところが今回、ドイツのマックス・プランク人類史科学研究所を中心にした、中国、日本、韓国、ヨーロッパ、ニュージーランド、ロシア、米国など11の国・地域、35の研究機関により構成された国際チームが、長年の懸案を克服。11月10日付『ネイチャー』で、トランスユーラシア語族の起源に関する新説を公表したのだった。
端的に言えば、今から約9000年前、中国東北部を流れる西遼河一帯でキビ・アワの栽培を営んでいた農耕民の言語がトランスユーラシア語族の起源で、彼らの移住により東西へ拡散したというのが新説の骨子である。
従来の「牧畜仮説」に対し、今回の新説は「農耕仮説」と呼ぶべきもので、具体的な点はともあれ、世界的に見れば少数派である「目的語の次に述語がくる」文法の誕生と確立が、キビ・アワ栽培の普及と連動していたとする指摘は実に興味深い。