キビ・アワ栽培は同時期の黄河流域でも行なわれていたが、シナ・チベット語族(インドのカシミール、チベット、中国大陸、台湾、中央アジア、東南アジアにわたる地域に広く分布する語族)の祖が栽培していたのは西遼河のもとは別種で、その違いがあるがゆえに、両者はときに隣接・混住しながら、一方の言語が他方を完全に併呑するに至らなかった。これがすべて事実であれば、何とも壮大な展開である。

 偏狭なナショナリズムの点から、多分に感情的異論が噴出することも予想されるが、現在の科学水準に照らして、今回の研究結果が確度の高いものであることは疑いなく、今後とも分野の枠を超えた共同作業で、日本語の起源をはじめ、トランスユーラシア語族全体の歩みがより具体的に判明することを期待したい。

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。最新刊に『鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史』(ワニブックス)がある。

 

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