『キャバレー日記』
【1982年公開 監督/根岸吉太郎 出演/竹井みどり、伊藤克信、森村陽子、早野久美子ほか】
舞台は新宿・歌舞伎町のキャバレー。チェーン店同士で熾烈に競争する「ミスニッポン・新宿グラマー店」では軍隊式の厳しい人間管理のもと、濃厚サービスで売り上げ日本一を目指すも、男女模様が入り乱れ様々な事件が起きる。
「このみっともなさ、泥臭さこそが僕の知っている青春だ」と評するのが城定秀夫(映画監督)。
「キャバレー(というかピンサロ……いや、本サロ?)を舞台に各々の事情を抱えながらも逞しく生きる女性たちと、体育会系(というか軍隊)ノリで管理された男性従業員たちが繰り広げる笑いと涙の群像劇。何度見てもこれだけの数のキャラクターを生き生きと動かし80分にまとめ上げる荒井晴彦の脚本と、軽やかで無駄がなく、かつパワフルな根岸吉太郎監督の演出に舌を巻き、恋に破れひとり社歌を口ずさみながら眩しい朝日を見上げる伊藤克信の背中に涙してしまう。
この猥雑さの中から立ちのぼる人間賛歌こそがロマンポルノだ。このみっともなさ、泥臭さこそが僕の知っている青春だ。自分がピンク映画の世界に身を投じる契機にもなった大傑作です!」
『天使のはらわた 赤い教室』
【1979年公開 監督/曽根中生 出演/水原ゆう紀、蟹江敬三、あきじゅん、水島美奈子 脚本/石井隆、曽根中生】
石井隆が原作の「天使のはらわた」シリーズ第2弾。暴行現場が収録されたブルーフィルムを巡って、運命に翻弄される女性の人生を描く。主演の水原ゆう紀は本作の大胆演技で第1回ヨコハマ映画祭主演女優賞を受賞した。
瀬々敬久(映画監督)は、「石井隆の紡ぐ物語の数々はシンプルにして力強く僕たちの心を打ち続けてくれた」と言う。
「1970年代後半からのロマンポルノを牽引し続けたのは石井隆原作あるいは脚本の、名美と村木のシリーズだと個人的には思っている。どれも大好きな作品なのだが敢えて挙げればこの映画。煉獄を生き続ける名美を追う村木が『もう俺にはそこまでは行けない』と追うことを諦める、ラストシーンの蟹江敬三の悲哀。水原ゆう紀の堕ちっぷりも素晴らしく、もはや神々しい。
黄泉の国に行ったイザナミノミコトを追いかけてきたイザナギノミコトがイザナミのあまりの変わりように恐れをなして逃げ帰ってしまうという神話を思い出す。神話の物語の強さに引けを取らない強度で石井隆の紡ぐ物語の数々はシンプルにして力強く僕たちの心を打ち続けてくれた」
※週刊ポスト2021年12月3日号