ライフ

【書評】「おかんアート」美術家が江戸趣味の達人を訪ねた名品カタログ

『江戸・ザ・マニア』/著・浅生ハルミン

『江戸・ザ・マニア』/著・浅生ハルミン

【書評】『江戸・ザ・マニア』/浅生ハルミン・著/淡交社/1980円
【評者】嵐山光三郎(作家)

 猫愛好家で「おかんアート」美術家として活躍する浅生ハルミンが、江戸趣味の世界を訪ねて、イラストレーションつきで解説する愉快な一冊です。

 まずは、おもと(万年青)で、旧家玄関先の陶製小鉢や、坪庭の石灯籠の下に置いてあった。上等なおもとは一鉢何十万円もするんだって。これに対して盆石という「縮景芸術」もあり、黒塗りのお盆に白砂を敷いて、岩に見たてた石をあしらう。いずれも立派な家元がいらっしゃる。

 盆栽はさいたま市大宮盆栽美術館に学芸員がいる。関東大震災のあと、東京の盆栽業者が六十軒ほど大宮に集まってきた。いまは六軒だが、美術館の販売コーナーには手ごろなサイズの盆栽が並んでいて、キャッ、かわいい、と大興奮。

 水石は、日本水石協会監査役という人が登場する。「月刊愛石界」という雑誌があり、自然石から水墨画に通じる幽玄を感じとる。監査役の恩田さんは「多摩川の河川敷を歩いていると見つかるんだ」といい、恩田夫人は「この人、天才なんです」とうなずく。つげ義治の漫画みたいで、いいなあ。

 かっぽれは豊年斎五代目家元の櫻川ぴん助。豊年斎としては五代目だが、幇間を生業とした初代櫻川ぴんすけさんの一人娘としては二代目である。かっぽれは、江戸末期のころ広場で行われた大道芸で、木魚を叩きながら踊った。ちゃかぽこ、ちゃかぽこ、あほだらきょう、だ。六人ほどの踊り手が、市松模様のゆかたを肩にはしょって踊る。いまは宇崎竜童さんのオリジナル曲でも踊っちゃう。

 江戸和竿はいなり町東作本店。浅草に近い稲荷町にある「東作」は天明三年(一七八三)の開業。オーダーメード和竿は、私のような釣り愛好家スイエンのまと。このほか、縁起熊手、鷹匠、折形、郷土玩具、扇、和時計など二十四種の江戸モノが登場するが圧巻は金魚ですよ。蝶尾という金魚は一万匹生まれて育つのは七匹、一万分の七の宝石ですぜ。ハルミンのかわいいイラストレーションがついた江戸名品カタログ。

※週刊ポスト2021年12月3日号

関連記事

トピックス

俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン