羽生を10年以上にわたって取材するスポーツジャーナリストの折山淑美さんは、その変心をこう読み説く。
「羽生選手には、五輪は勝つ場所というプライドがあります。その舞台で勝つために4回転半を決めると明言したのは、4回転半の完成度が上がったことへの自信の表れだともいえます。それと、ライバルと目されているネイサン選手に勝つためには、4回転半が必要。羽生選手は、4回転半を入れた構成でネイサン選手と戦いたいし、それでないと迫れないことを理解していると思います」
ネイサンは全日本選手権の羽生を上回る高得点で1月上旬に行われた全米選手権を制し、万全の状態で北京五輪に駒を進めてくる。また北京五輪は、これまで羽生とネイサンの一騎打ちとの見方が大半だった。だがここへきて、フィギュアスケート関係者の間で伏兵の存在を気にする声が上がり始めている。14日の欧州選手権で優勝したロシアの新鋭、マーク・コンドラチュク(18才)だ。
「彼は12月のロシア選手権で初優勝以降、勢いに乗っています。実力は折り紙付きで、羽生選手が挑戦中の4回転半にも意欲を示すほどのポテンシャルを秘めている。ネイサン選手も好調ですし、羽生選手にとっては、かつてないほど難しい五輪になる。4回転半の出来が勝負を左右するでしょう」(フィギュアスケート関係者)
2連覇した平昌五輪時、羽生は右足のケガもあり、感覚がマヒするほどの強い痛み止めを服用して競技に挑んでいた。全日本選手権で酷使したとはいえ、その痛み止めも、羽生いわく「いまは平昌五輪時の3分の1程度で、人間がのめるといわれている量」に留めることができているという。数々の逆境を乗り越え、五輪連覇を果たした羽生。北京五輪でも王者だけが持つ“強さ”を発揮してくれるに違いない。
※女性セブン2022年2月3日号