(c)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

森田のリアルな演技が話題に(c)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

 演じる森田の表現は的確で、工藤の表情や声、所作には、これまで苦しんできた経験の多くがトラウマとなっている様子が見て取れる。目や声には力がなく、軽く突けば崩れてしまいそうなほど。本当に弱っている人間の姿を体現しており、森田は“演じる”という次元を超え“そこにいる”ようだった。彼の演じる前科者には圧倒的なリアリティがあり、多くの観客もこの点に驚いているようだ。

 本作で6年ぶりに映画出演を果たした森田は、知る人ぞ知る“演技派”だ。劇団☆新感線の舞台『IZO』や、故・蜷川幸雄(享年80)演出による『血は立ったまま眠っている』、宮本亜門(64才)が演出した舞台『金閣寺』と、異なるタイプの作品や演出家の下で表現を磨きた。さらには、アングラ演劇『ビニールの城』や岩松了(69才)とのタッグ作『空ばかり見ていた』、海外戯曲『FORTUNE』などでも座長を務めている。近年は特に、演劇作品での活躍が顕著だっただろう。

 その過程で彼の代表作となった映画が、2016年公開の映画『ヒメアノ〜ル』だ。平穏に生きる者たちを恐怖のどん底に突き落とすシリアルキラーを演じ、その振り切れた怪演ぶりが話題となった。同作での森田の演技が、いまだに記憶に鮮明に残っている人も多いだろう。それほど強烈だったのだ。

 俳優としてのキャリアを重ねてきた森田だが、本作での工藤役の演技は、これまでの彼の演技とはまったく異質なものとなっている。過去彼が扮してきた役の演技の延長線上に工藤はおらず、ここに俳優・森田剛の大きな飛躍があるように思う。先に挙げた演劇作品の多くや『ヒメアノ〜ル』での演技が“動的”なものであるのに対し、工藤役での彼は“静的”な演技に徹している。パフォーマンス性の強い演技とは対極的で、キャラクターのディティールが物を言う演技を披露しているのだ。

 人間性やバックグラウンドは、細部にこそ宿るもの。工藤が背負ってきたものが森田の繊細な表現によってスクリーンを越えて伝わってくる。本作の撮影はV6時代のことだが、これまで見てきた森田とは明らかに違う。本格的に役者の道を進み始めた森田の“これから”に期待せずにはいられない演技を刻んでいた。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

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