そもそもワクチンの有効期間とはいかなるものか。医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんが説明する。
「一般に有効期限とは、製薬会社が薬の安定性を検査し、指定された保管方法において、いつまでなら有効性が保たれるかを保証した期間をいいます。薬は一定の保存法でも時間が経てば劣化します。“いつまでなら効果があるのか”を示したものが有効期限です。
通常のワクチンは生のウイルスや、たんぱく質をバラバラにして不活化したウイルスを原料として用います。そうしたワクチンの有効期限はだいたい1年。インフルエンザのワクチンもそうです」
今回のように、一度設定されたワクチンの有効期限が承認後に延長されることはあり得るのか。
「過去には例がありません」
そう言うのは岡田さんだ。
「インフルエンザのワクチンは流行に合わせて計画的に生産し、有効期限が切れたら破棄します。コロナワクチンは人類が初めて経験するもので、ただでさえ不安な中、有効期限を延長するなんて、まさに前代未聞です」(岡田さん)
どうせ延長するなら、最初から9か月にしておけばよかったのではないか―延長された理由について、上さんは「ワクチン不足」を指摘する。
「コロナワクチンは、有効期限を6か月とした当初から、供給不足が不安視されていました。実際にワクチンが足りなくなり、切羽詰まった製薬会社が急きょワクチンの安定性を検査して、9か月でも有効性に変化がなかったから有効期限を延長したと考えられます」
慌てて3回目接種をする必要はない
最も気になるのは「期限切れワクチン」のリスクだ。上さんは「科学的にはそれほど心配はいらない」と語る。
「ファイザー製とモデルナ製のワクチンは、ウイルスの遺伝情報を体内に注入するmRNAワクチンです。このタイプは特殊な冷蔵庫でしっかりと冷凍保存しておけば、有効期限が3か月延びても安全性、有効性ともに問題はないと考えられます」(上さん)
岡田さんは、「問題とすべきは有効期限よりも取り扱い方」と指摘する。
「遺伝子はいったん凍らせれば長期にわたって保存できます。ただし、注意すべきは解凍してから接種するまでの保存状態で、mRNAワクチンは室温で希釈してから6時間しか持ちません(ファイザー製の場合)。
その際に温度が上下したり、空気に触れるなどして取り扱いを誤ると、ワクチンが劣化して効果が下がります。それでも毒性が増すとは考えにくい」(岡田さん)