決断にあたり、國保監督は球児に相談はしなかったという(撮影/藤岡雅樹)

決断にあたり、國保監督は球児に相談はしなかったという(撮影/藤岡雅樹)

 それからも私は大船渡の公式戦に通い続けてきたが、昨年の夏以降は新型コロナの蔓延などと重なり、岩手に向かうことはためらわれた。その間に、國保は監督を辞めていたことになる。人柄を考えれば、自身の退任を大事にしたくないのだろうが、國保の退任は地元メディアも報じていない。

 今も耳に残るのは國保の次の言葉だ。

「あの日の決断が正しかったのか、間違っていたのか。毎日のように逡巡していました。(佐々木が129球で完投した決勝前日の)準決勝で他の投手を起用していたらどうなっていたかとか……答えは見つかりません」

 盛岡一を経て、筑波大へ進学した國保は、卒業後も現役への未練を断ち切れず、米国の独立リーグに挑戦した経験を持つ。そこで、ケガによってメジャーの舞台から都落ちしてきた選手を幾人も目にした。教員となり野球指導者になると、投球障がいをはじめとする野球選手ならではのケガを徹底して避けるようなチーム運営を心がけてきた。

 投球動作解析の第一人者で、筑波大硬式野球部監督の川村卓は、國保の恩師にあたる。國保は佐々木の在学中に筑波へ連れて行き、アドバイスを仰いだこともあった。

 川村は初めて佐々木に会った時、この体で本当に160キロを投げられるのか──そう驚いたという。同時に、「体のサイズと腕の振りだけで投げていた。長期的に見れば故障は避けられないだろう」という見解を持った。そうした川村の助言も、國保の登板回避という“英断”を後押ししていたはずだ。

 そして川村は「体が出来上がれば、いったいどこまでのボールを放るのか」とも思っていた。

「プロ1年目を終えた頃は、体が横に大きくなってようやく大人の体になってきていた。今年は、さらに体幹が強くなったおかげで、コントロールが安定してきた。また、足を上げてから、打者方向へ片足立ちの状態で体重移動していく時に、股関節を柔らかく使って、深い姿勢、低い姿勢で進んでいけるようになった。フォームの安定につながり、それがボールのスピードも生んでいる印象です」(川村)

 高校時代に感じられた不安は解消されたのだろうか。

「こればかりは投手をやっている以上、つきまとうもの。まだシーズンが始まったばかりですし、そもそも彼は1シーズンを投げ抜いた経験がない。以前に比べれば、右ヒジが上がったトップ時に、腕が頭に近いところにある。これは障がい予防においては大事なこと。今後を見据えれば良い傾向ですが、まだまだ改良の余地がある。つまり、のびしろはまだまだある。170キロも夢ではない」

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