吉野家のマーケティング戦略について『東洋経済オンライン』(2020年2月)の取材に、〈特別なことはしていないが、唯一使っているのが「引き出し理論」という考え方だ。人間の頭の中に引き出しがあるイメージで、その引き出しを開けたときに手前にあるものを買うのが購買行動だ〉と答えることも。一方で、マーケターと各種ツールの関係を「料理人」と「包丁」にたとえたこともあった。
〈今は柳刃包丁に限らず、何百種類の包丁が売られている時代。それによって包丁をいっぱい揃えることに満足して、料理人であることを鍛えていない人が増えているように感じるのです〉(「アジェンダノート」2019年7月掲載のインタビュー)
こういった言語感覚は、伊東氏が高校時代に落語研究会に所属していたことも関係していたのだろうか。落語の経験がビジネスに活かされている部分もあるらしく、伊東氏自身は同メディアのインタビュー(2020年4月掲載)でこのように語っている。
〈普通に誰かと話しているときにも、相手の目や表情から、今は理解してもらえていそう、興味持っていそうということを読み取りながら言い方を変えているんです。それは落語という部活動で練習したからできていることなんです〉
もちろん、落語を経験した多くの人は彼のような女性蔑視発言をするわけではなく、落語にはまったく罪はない。伊東氏は場を盛り上げようとして問題発言をしたのかもしれないが、残念ながら本当の意味でその経験は活きなかったようだ。
吉野家を利用する女性たちの声
実際に吉野家を利用する女性たちは、今回の騒動をどのように受け止めているのだろうか。店から出てきた女性客に声をかけたところ、このような答えが返ってきた。
「吉野家は便利なので一切利用しなくなることはありませんが、やっぱり差別的というか、バカにされたような気持ちにはなりました」(30代女性)
「ニュースを見て、古い人なんだなと思いました。でも時間がないときにパッと食べられて便利ですし、これからも吉野家を利用はします」(20代女性)
今回の騒動により、女性たちは大なり小なり複雑な感情を抱えながら牛丼を食べることになってしまった。創業120年を超える吉野家。4月19日からは開発に10年かけたという力作の親子丼が発売開始したが、広報活動を自粛し、発表会も中止になった。ただ純粋においしい料理を提供しようとしていたスタッフたちの胸中は──。