キーエンス社員の間で語り継がれているエピソードがある。ある日、滝崎氏に営業社員から相談があった。「取引先から『お前の会社は儲けすぎだ』と言われるが、どう答えればいいか」。滝崎氏はこう答えたという。
「私は若い頃、オーディオが好きだったが、ソニーの製品を買おうと思っても店側は値引きしてくれない。他社製だと3割くらい値引きするのに。だからといって、ソニーの商品が売れないということはない。本当に高すぎるのなら売れないはず。つまり、なぜ客が、高すぎる、値引きしろと言うかというと、本当にその商品が欲しいからだ。だから、それは商品に対する“誉め言葉”として聞いていればいい」
立石氏は、いかにも滝崎氏らしい返答だと語る。
「滝崎さんは理系人間なので、どんなことでも理詰めで考え、反論を事前に想定して、答えを用意している。それで反論してくる人を論破できたら、その考えは正しいとみんなに納得してもらえるわけです」
値引きもしなければ、取引先に対する接待営業も一切禁止。理屈に合わないからだが、よほど自社製品に自信がなければ、できないことでもある。
※週刊ポスト2022年4月29日号