「いまは、SNSでいろんな人が声を上げられるので、こういう傷つき方があるんだ、みたいなことを学習するのは、それほど深くない関係の相手との間ではプラスに働く面もあると思います。でも、一対一で深くかかわる相手に、そういう第三者の意見がどれほど意味があるかって考えると、ちょっとわからないですよね」

 タイトルになっている「求めよ、さらば」というのは、新約聖書の「求めよ、さらば与えられん」からとられている。学生時代、志織がバイト仲間に頼まれて英訳した歌詞が、ここからヒントを得て書かれたという設定で、志織と誠太の関係性、2人のこれまでとこれからを象徴するようでもある。

「タイトルは、自分でもうまくハマったなと思います。考えているうちにこの言葉が浮かび、『これだ!』と思いました」

 妊活中の志織は、女友だちの衿子が妊娠したと聞いて動揺し、自己嫌悪にもなる。だがその先、小説では、結婚や出産をめぐって立場の違う3人の女友だちが、1人の妊娠を機にバラバラになる展開にはならない。

「3年前の自分には、こうは書けなかった気がします。他の作家の作品やインタビューを読むなかで、女同士を争わせる、キャットファイト的な展開を安易に選んでいいのだろうかという気持ちが生まれました。結婚しても、パートナーとの関係だけが人生のすべてではないし、志織が成長するなら友だち関係も同時に動くんじゃないかなと思いました」

 これからも、夫婦について書いてみたいそうだ。

「親子やきょうだいと違って、夫婦は家族の中で唯一、自分で選べるじゃないですか。それでもうまくいかないことがある。まだまだいろんな秘密が眠っていると思うんですよね」

【プロフィール】
奥田亜希子(おくだ・あきこ)/1983年愛知県生まれ。2013年『左目に映る星』ですばる文学賞を受賞しデビュー。ほかの作品に『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』『青春のジョーカー』『愛の色いろ』『愉快な青春が最高の復讐!』『白野真澄はしょうがない』『クレイジー・フォー・ラビット』など。 

取材・構成/佐久間文子 撮影/藤岡雅樹

※女性セブン2022年5月12・19日号

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