米軍のイルカの訓練所は、カリフォルニア州のサンディエゴやフロリダ、ハワイにあり、一時は100頭を超えるイルカが飼育・訓練されていたという。動物愛護団体から「虐待だ」との激しい抗議運動もあり、現在では米軍によるイルカの軍事利用は大幅に縮小したとみられる。
一方のソ連では、軍事利用に向けた研究は’66年にスタートした。初期にはイルカの脳に電極を埋め込んだり、バクテリアに汚染された水中でサバイバルさせたり、果ては北極海にパラシュートで降下させたりと、“過酷な訓練”が行われたこともあったという。
ソ連のイルカ部隊の拠点は前出の黒海セバストポリ港。およそ50頭のイルカが飼育されていた。イルカの鼻先に金属製のマスクを取りつけ、刀剣や偵察用の小型カメラなどを装着して活動させたこともあったという。
なお、イルカを使っての敵への攻撃は米軍も行っており、ベトナム戦争中の1968年には、米軍の拠点に海から潜入しようとしたベトナム兵58人を殺害した記録があるという。
イルカの特徴的な能力に、潜水艦のアクティブ・ソナー(音波発信探知機)と同じように、鼻の奥の器官から超音波を出し、その跳ね返りをキャッチして海中の対象物の位置や形などを特定するというものがある。自然界ではエサや仲間を発見するためだが、訓練次第では金属製のものだけを選り分けて見つけることもできるようになるらしい。
この能力が存分に発揮されたのが、1997年7月にセバストポリで行われたイルカによる探索活動だ。このときすでにソ連は崩壊しており、イルカ部隊はウクライナに引き継がれていた。ロシアのインタファクス通信などの報道によると、ウクライナがイルカを使って港周辺の海中を探索させたところ、水深7~20mの海底に、9個のコンテナが沈んでいるのを見つけたという。第二次大戦中に投棄されたもので、なかには化学兵器が大量に保存されており、腐食が進めば、甚大な環境汚染が起きかねなかった。
その後、2014年にロシアがクリミア半島に侵攻して一方的に併合した際に、このイルカ部隊もロシア軍に組み込まれたそうだ。
2019年4月、ノルウェーの北極海沖で、やたらと人懐こいシロイルカが発見された。胴体にハーネスが巻かれ、小型のカメラを設置できるホルダーが取りつけられていたという。ホルダーにはロシアの大都市「サンクトペテルブルク」の刻印があったため、「ロシアが軍事用に訓練して、人に慣れたイルカだろう」とみられている。