「有吉は絶対にまた来るから」

2009年、映画『カールじいさんの空飛ぶ家』いい夫婦プレミアム試写会に出席した上島夫妻

2009年、映画『カールじいさんの空飛ぶ家』いい夫婦プレミアム試写会に出席した上島夫妻

 もうひとつ忘れられない出来事がある。初の書籍発売の記念として銀座にあった福家書店で握手会をやったときのこと。開始時間が平日の15時というのに長蛇の列ができ、メディアもテレビの生中継、各新聞社、雑誌社が押し寄せ、お祭り状態だった。「上島さん、もの凄い数の人が集まっています」と一目散に待合室で待機している上島さんに告げた。

「またまた〜。こんな平日に人なんかくるわけないじゃない。気を遣わなくていいから。後で落ち込むのは俺だよ」

 そう訝しがりながら会場に行くと、250人以上のファンが歓声を上げる。上島さんは「まさか!?」といった顔でかしこまり、終始もじもじしながらひとりひとりに丁寧に頭を下げて握手していた。

 そのときの上島さんの顔をしっかりと覚えている。予想以上のギャラリーのためか顔が強ばり、なんだか申し訳なそうにしながらファンの人たちの目を見て「ありがとうございます」と優しい笑みを浮かべて心の籠った握手をしていた。照れているというより奥ゆかしさを感じた。これが、“竜ちゃん”なんだ、と思った瞬間でもあった。

 本業のお笑いに関しても優れた慧眼を持っていた。有吉弘行が一発屋としてまだ低迷していた時期、「有吉は絶対にまた来るから」としきりに連呼していた。伝記の打ち上げのときも「有吉は必ず来る。俺の目に狂いはない」と大声で叫び、「いやいや、狂ってばっかじゃねえか!」と土田や劇団ひとりに突っ込まれていた。

 それでも僕に耳打ちするように「必ず有吉来るから見ててよ」と泥酔して呂律が回らない中でも言っていたのをよく覚えている。現に、有吉は大ブレークした。目に狂いはなかった。

 自分の本ゆえか、後輩芸人にも話を聞いて取り上げて欲しいと僕なんかに丁寧に頼み込み、とにかく頑張っている後輩を引き立てようとする思いがありありと見えた。いつも周りに気を遣い、慎み深い姿が逆にお茶目に見えた。

 上島さんの笑顔は、朝方の太陽のようにキラキラしていつも温かかった──。

◆文・松永多佳倫(まつなが・たかりん)/ノンフィクション作家。1968年、岐阜県生まれ。琉球大学卒業後、出版社勤務を経て執筆活動開始。近著に『確執と信念 スジを通した男』(扶桑社刊)など。

【相談窓口】

「日本いのちの電話」

ナビダイヤル 0570-783-556(午前10時~午後10時)

フリーダイヤル 0120(783)556(毎日:午後4時~同9時、毎月10日:午前8時~翌日午前8時)

関連記事

トピックス

長男・泰介君の誕生日祝い
妻と子供3人を失った警察官・大間圭介さん「『純烈』さんに憧れて…」始めたギター弾き語り「後悔のないように生きたい」考え始めた家族の三回忌【能登半島地震から2年】
NEWSポストセブン
古谷敏氏(左)と藤岡弘、氏による二大ヒーロー夢の初対談
【二大ヒーロー夢の初対談】60周年ウルトラマン&55周年仮面ライダー、古谷敏と藤岡弘、が明かす秘話 「それぞれの生みの親が僕たちへ語りかけてくれた言葉が、ここまで導いてくれた」
週刊ポスト
小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン