「有吉は絶対にまた来るから」
もうひとつ忘れられない出来事がある。初の書籍発売の記念として銀座にあった福家書店で握手会をやったときのこと。開始時間が平日の15時というのに長蛇の列ができ、メディアもテレビの生中継、各新聞社、雑誌社が押し寄せ、お祭り状態だった。「上島さん、もの凄い数の人が集まっています」と一目散に待合室で待機している上島さんに告げた。
「またまた〜。こんな平日に人なんかくるわけないじゃない。気を遣わなくていいから。後で落ち込むのは俺だよ」
そう訝しがりながら会場に行くと、250人以上のファンが歓声を上げる。上島さんは「まさか!?」といった顔でかしこまり、終始もじもじしながらひとりひとりに丁寧に頭を下げて握手していた。
そのときの上島さんの顔をしっかりと覚えている。予想以上のギャラリーのためか顔が強ばり、なんだか申し訳なそうにしながらファンの人たちの目を見て「ありがとうございます」と優しい笑みを浮かべて心の籠った握手をしていた。照れているというより奥ゆかしさを感じた。これが、“竜ちゃん”なんだ、と思った瞬間でもあった。
本業のお笑いに関しても優れた慧眼を持っていた。有吉弘行が一発屋としてまだ低迷していた時期、「有吉は絶対にまた来るから」としきりに連呼していた。伝記の打ち上げのときも「有吉は必ず来る。俺の目に狂いはない」と大声で叫び、「いやいや、狂ってばっかじゃねえか!」と土田や劇団ひとりに突っ込まれていた。
それでも僕に耳打ちするように「必ず有吉来るから見ててよ」と泥酔して呂律が回らない中でも言っていたのをよく覚えている。現に、有吉は大ブレークした。目に狂いはなかった。
自分の本ゆえか、後輩芸人にも話を聞いて取り上げて欲しいと僕なんかに丁寧に頼み込み、とにかく頑張っている後輩を引き立てようとする思いがありありと見えた。いつも周りに気を遣い、慎み深い姿が逆にお茶目に見えた。
上島さんの笑顔は、朝方の太陽のようにキラキラしていつも温かかった──。
◆文・松永多佳倫(まつなが・たかりん)/ノンフィクション作家。1968年、岐阜県生まれ。琉球大学卒業後、出版社勤務を経て執筆活動開始。近著に『確執と信念 スジを通した男』(扶桑社刊)など。
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