現金授受の経緯については、榊原氏とX氏との間で見解が食い違う。改めてX氏は言う。
「一部メディアに記事が出るかもしれないと榊原さんに伝えたら、彼のほうから金を出そうと提案してきたんです。私の情報源を取り込みたいということで、情報交換をしたり、顧問になってもらいたいという話もありました。金額についても『いくらがいい?』と訊かれましたが『そういうのは分からないからそっちで決めてほしい』と伝えたことがあります。最終的に受け取った500万円は、情報源にそのまま渡しました」
いずれにせよ、榊原氏がX氏に500万円を渡した事実に変わりはない。なぜ「音声の内容には問題がない」と言いながら、金を支払ってしまったのか。
「私には、PRIDE時代に一方的に書かれ、フジテレビにも契約を切られてつらい思いをした時のトラウマや強迫観念がすごくあるんです。それは今も全く消えずに持ち続けている。一度疑われたら、いかにシロでも完全に信じてもらうのは難しい。金を渡すことで情報をコントロールしてもらえるなら、そうしてほしいというのが率直な気持ちでした」
2006年、当時、格闘技団体「PRIDE」を主宰するDSE(ドリームステージエンターテインメント)代表だった榊原氏と暴力団幹部との交際疑惑が報じられると、PRIDEの大会を中継していたフジテレビは、「DSEによる契約違反が明らかになった」として、放送中止を発表した。榊原氏は即座に事実無根と反論したが、放送中止の決定は覆らなかった。PRIDEは他団体に買収されることになり、事実上消滅した。
榊原氏は2015年にRIZINを設立後、コンプライアンス委員会を作るなど対策に取り組んだ結果、再びフジテレビとタッグを組み、格闘技中継の地上波復活にこぎつけた経緯がある。それだけに、天心VS武尊という榊原氏にとっても集大成的なビッグマッチを前に、コンプライアンス上の問題が騒がれる可能性を排除したいという気持ちが働いたのだろうか。だがその後、榊原氏はX氏に不信感を抱くようになったという。
「X氏が名前を挙げた国会議員にも直接会って問い合わせたら、『うちの秘書がそんなことをしているわけがない』と言う。私もいよいよおかしいと思い、X氏に疑問をぶつける場を設けました」
「脅し取られた」
3月末、関係者が勢揃いした。榊原氏とX氏、仲介者の女性、RIZINの代理人弁護士、そしてY氏も同席した。
「X氏にはその場で説明を求めましたが、しっかりした回答は全く得られず、本当にがっかりしました。彼はその後、国会議員事務所に詫び状を届けたそうです。私は、500万円は脅し取られたものだと考え、今も警察に相談し、詳しくは言えませんが告訴の準備を進めています」
X氏の見解はこうだ。
「榊原氏にしつこく情報源について訊かれる中で、ついフェイクで『政界関係者』と言ってしまった。その後も何度も問い詰められたので、付き合いのあった議員事務所の名前を出してしまいました。議員事務所には後で詫び状を届けました。しかしその後、Y氏を同席させて取材依頼元を開示するよう強要してきたので警察に掛け合い、告訴を準備しています。