最後はお客様を救ってあげたい
人知れず芸を磨き、仲間たちの成功を傍に見る間も、〈努力と忍耐〉は氏のモットーであり続け、「腐る暇は意外にもなかった」と笑う。
「キャバレーやスナック、夏祭りに老人施設の慰問と、ブレイクする前もいろんなお仕事に呼んでいただけて、いい時代だったんですよ。今思うと52歳は十分若く、むしろ早くに売れていたらダメになっていた気もする。自分の笑いを認めてくれる人は必ずいると私はなぜか確信できていたし、人生は後半の方が大事ですもん」
客席との呼吸が今の形を作ったという著者にとって、マスクで顔が見えない現状は逆境そのもの。本書には〈本音は本音でも、人を傷つけることのない、できれば清々しいもの〉とあるが、きみまろ流「誰も傷つかない毒舌」はなぜ可能なのか。
「お客様は遠方からお金を払ってまで見に来て下さる。私はその点が最も重要だと思っていて、来た以上は喜んでほしいし、毒をあれこれ吐きつつ、最後は救って差し上げたいわけです(笑)。
我々芸人は人気商売です。お客様に好かれたいんです。だからセクハラ云々と言われても芸をブラッシュアップし、客層や時代に合った笑いを日々追求してきた。今はコロナの時代に負けないように、マスクの中のより大きな笑いをめざして、過去の録音も聞きつつ研究と努力を重ね、今まで以上の気合で舞台に立っています。皆様、会場でお待ちしております」
老いも孤独も〈見方を少しズラせば〉面白く、笑いにすらできると、中高年の悲哀に長年寄り添うプロはその極意を明かす。むろん著者のようにはいかないが、笑いとは使いこなせるものなのだ。
【プロフィール】
綾小路きみまろ(あやのこうじ・きみまろ)/1950年鹿児島県生まれ。高校卒業後上京。新聞配達をしながら拓殖大学商学部に通う中、配達先で偶然キャバレーの支配人と出会い、司会者の道に。森進一、小林幸子、伍代夏子らの専属司会や漫談家として活動する一方、自作の漫談テープを観光バス等に無料配布。これが評判を呼び、2002年リリースの漫談CD『爆笑スーパーライブ第1集! 中高年に愛をこめて…』は185万枚を突破。2003年にはNHK紅白歌合戦に初出演し、現在はYouTubeも開設。165cm、70kg、O型。
構成/橋本紀子
※週刊ポスト2022年6月24日号