記憶に新しい作品といえば『監察医 朝顔』(フジテレビ系列・2019年〜)の万木朝顔役。2020年放送の2シーズン目は月9初の2クール連続放送となった。当初から、東日本大震災後10年を意識した作品だったので、導入が重かったのを覚えている。

 でも、放送回を追っていくと、仕事を持った女性が結婚をして、出産をして育児をする、今でも社会問題として存在するテーマを丁寧に描いていた。上野樹里が演じる朝顔は周囲(家族、同僚)の手を借りて、家事を“手伝う”のではなく当たり前に“行う”夫と協力して進めていた。もちろん作中で葛藤も見せたけれど、「こういうふうにすればいいのか」というロールモデルとしても参考になっただろう。

 つまり、上野さんが演じていた役はすごく“早い”。トレンドを先取りして、時代が騒ぎ出す、流行する前に、演じる役柄を通して話題を作り続けている。これこそが、つい彼女の出演作を見逃せなくなる理由のひとつ。

上野樹里の困った顔が思い浮かぶ

 そして、『じぞ恋』で演じる沢田杏花だ。旅行会社に勤務していたもののストレスを抱えてヨガインストラクターに転職し、独立を決意。コロナ禍以降、意識する人がさらに増えているキャリアチェンジの一例だ。

 さらに、杏花は子どもがいる男性を好きになり、結婚をして母親になることも決意する。血縁を重んじる傾向が根強い現在の日本では、継母や継父、養父母になることに一瞬、立ち止まる。でも少子化の叫ばれている日本で、こうした感覚は時代遅れになる予感がする。実際、海外では血縁の有無が家族関係の障壁となるケースは少ないようだ。上野さんが演じた役柄が、また半歩先を進んでいる。どうやら、杏花の父親も実父ではないらしい雰囲気を感じている(第8話放送より、筆者予測)。

 ここまで述べたように、上野さんが演じてきた役やシチュエーションは、世間の流行に沿っている。世間が気になっているテーマを率先して体現化しているようなイメージだ。

 加えて、彼女のことを思い出して浮かぶ表情は、可愛らしい笑顔もあるけれど、眉間に皺を寄せた「困ったな……」という表情も多い。あくまでも演技によるものだけど、あの困惑した表情が普通っぽくていい。

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