保育所探しは大変(イメージ)
「一例である」という括りも凄いが、別に所得階級が高いから有閑マダム(あえて昭和っぽく書く)というわけでもあるまい。それこそ先に筆者が示した通り、夫婦、子育て、介護が様々であるのと同様に働き方、生き方もそれぞれのはずだ。それをどこかで集約するのが政治の役割であることは承知しているが、配偶者控除を含めた福祉の切り捨てへの足がかりの言い訳に使われるのはどうだろうか。
「私は子どもを祖父母が見てくれているので配偶者特別控除の範囲で働けていますが、他のお母さんは保育所探しも含めて大変ですよ。働く時間も制約されるでしょうし」
保育所問題に関してはとくに地域差があり、地方の多くは少子化と人口流出により保育所に余裕がある地域が増えているものの都市部、とくに都心部はいっこうに解決をみない地域も多い。いわゆる「待機児童」問題だが、例えば東京都だと世田谷区や江戸川区は待機児童ゼロを実現したとされるが、町田市や小平市、タワマン乱立の中央区などは待機児童数ワーストに上がっている。またいずれも「潜在的待機児童」の解決には至っていない。この一例をみても、「女性を専業主婦、または妻は働くとしても家計の補助というモデルの枠内にとどめている一因」と言えるとしたら、この国の一般国民に対する家族政策は(いまに始まった話ではないが)じつに「あやしい」としか言いようがない。
そもそも配偶者特別控除は「配偶者控除」の年収103万円以下を「配偶者特別控除」では201万円以下とし、所得金額に応じた控除を適用する所得控除のことだ。個別の詳細は本旨でないため省くが年間48万円以内の所得(「収入」ではなく「所得」である)の場合の適用が「配偶者控除」で、年間48万円以上133万円以内に適用される。また扶養者の所得金額が1000万円を超えると配偶者であっても適用外である。
「今年はたぶん手取りが減ると思います。厚生年金の加入対象になるみたいなんで」
その扶養の中には「106万円の壁」というものもある。年収106万円以上(いわゆる月額賃金8.8万円)、週20時間以上、勤務期間1年以上(見込み)、従業員501人以上の企業(労使間の合意があれば501人未満も可)、学生でない、というこの5条件をすべて満たす場合は厚生年金に加入しなければならない。会社側が半分負担する上に将来的な年金の本人受け取り額は上がるが、当然ながら手取りは減る。それが今年の2022年10月から従業員101人以上の企業にも適用されることになる。2024年10月からは51人以上の企業にも適用される予定のため、事実上の配偶者控除廃止に向けた布石と言える。
配偶者控除廃止の次はサラリーマン控除廃止か
「子育てや介護はそんなに簡単でフルタイムで働きながらでもできる、努力すれば金はいくらでも稼げると、本当に国は思っているのでしょうか」
この言葉は子どもを育て、義母を17年間介護した60代女性の言葉で重い。コロナ禍以前までは「経済評論家」「○○総研」あたりの中に「扶養から外れれば労働時間や収入額を気にしなくて好きなだけ働けます、そうすれば責任ある仕事を任されてキャリアアップもできます」「サラリーマンの妻だけが優遇されて、その妻の労働力を生かせないのはもったいない」などと書き立てる者もいた。別にパートや非正規でも責任ある仕事を任されている人もあるし、後者に至っては何の上目線かわからないが余計なお世話である。
しかしこの余計なお世話、今回の白書により政府の方針としての「余計なお世話」に取り代わっている。
〈配偶者の収入要件があるいわゆる配偶者手当については、税制・社会保障制度とともに、就業調整の要因となっているとの指摘があることに鑑み、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう、労使に対しその在り方の検討を促すことが重要であり、引き続きそのための環境整備を図る(厚生労働省)〉(白書・290P)。
なぜか小さく書かれているこの文言、つまり企業に対して「会社が家族手当を出すから社員の女房が働かないなんとかしろ」ということか。本当に大きなお世話である。
「テレワークだからフルタイムでも子育てできるでしょうって、エッセンシャルワーカーには無縁ですし、電車の混み具合を見ると出社する形に戻っているのではないでしょうか」
冒頭のドラッグストアで医薬品登録販売者として働く女性の話、都心の混雑はラッシュ時に限れば戻りつつある。エッセンシャルワークを始めとする対面仕事や現場仕事でテレワークを実現するのはまず無理、事務方でも中小企業を中心に出社体勢に回帰する企業が増えている。しかし白書では、
〈コロナ下で、テレワークの浸透や在宅勤務等、働き方が多様化し、コロナ前に比べ、平日に自宅で仕事以外に使える時間が増えるなど、男女ともに家庭と仕事の両立をしやすくなった人が増加している〉(白書・P98)
としている。以降のP100、P101にその根拠となる表が掲載されているのだが、比較は2019年12月から2021年10月までで、それは増える結論になるだろうという当たり前の表である。コロナ禍が一時的にピークアウトしたとされる2020年12月ごろのテレワーク率は下がっているのに。これを以て恣意的とまでは言わないが、「男女ともに家庭と仕事の両立をしやすくなった人が増加している」と大きく結論づけるのはどうかと思う。
また白書の引用資料として使われている中のひとつ、「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府・2021年11月1日付)の「地域別・企業規模別のテレワーク実施率」を見ると「増加している」としたテレワークに関して就業者1000人以上の企業では46.7%に対し300人から999人の企業で32.4%、30人から299人の企業で26.7%、2人から29人の企業となると20.9%となっている。
もちろんいずれも2019年12月のコロナ前よりは大幅に増えているのだが、このテレワーク実施率の中には「定期的にテレワーク(出勤中心50%以上)が20%から30%含まれている。対して「テレワーク(ほぼ100%)」は10%から20%程度。これで「男女ともに家庭と仕事の両立をしやすくなった人が増加している」は無理がある。