国内

【安倍氏銃撃】橋爪大三郎氏「政治的リーダーは狙われるとの常識が日本では欠けていた」

社会学者の橋爪大三郎氏が安倍氏銃撃を分析(写真/共同通信社)

社会学者の橋爪大三郎氏が政治リーダーのおかれる状況について語った(写真/共同通信社)

 戦後初となる総理大臣経験者の暗殺事件がニッポン社会を大きく揺るがしている。なぜ悲劇が起きたのか、社会学者の橋爪大三郎氏が分析する。

 * * *
 政治家や要人の暗殺は世界中で起こっている。動機は様々だが、手段は銃器であることが多い。実行する側は確実に殺害しようとするからだ。1974年に三菱重工ビル爆破事件を起こした極左テロ集団(東アジア反日武装戦線)は、もともと那須から帰還する天皇のお召列車を爆破する計画だったといわれる。銃器に比べて標的を確実に殺害できるとは言いにくいので、爆弾が最近実際に用いられることは少ない。

 わが国では銃器について厳しい規制がある。普通の人が入手するのは不可能に近い。唯一の方法が自作することで、今回はそういう発想と基礎知識を持った容疑者が、試作を重ねて銃器を作ってしまった。自作の銃の精度が低いと本人が理解していたので、2連の設計にしたという。知識のある容疑者が準備を重ねた結果、日本で戦後初めてとなる事件が起きてしまった。

 日本でも戦前は首相を含め政治家の暗殺が相次いだ時代があるが、戦後は稀だった。

 一方、米国は一般人が銃器を持てる社会だ。政治家や要人の暗殺もしばしば起きるが、銃器を持つ人の総数が多いことを考えると、暗殺の企てが成功する割合はきわめて低い。それはSPのようなカウンターテロリズムの技術が発達していて、要人警護の態勢が万全だからだ。

 第16代大統領・リンカーンが殺された頃から、政治的リーダーが標的になるということは常識として根付いている。それゆえ、米国では銃の乱射事件は多いものの、要人殺害は抑え込まれている。大量のSP集団が規律訓練を受け、プロフェッショナルとしての待遇を得られる。武器を持って要人と接触する立場になる者たちなので、スクリーニング検査で二重三重にチェックもされる。そうした手間や時間、費用をかけることが当然だという常識がある。

 日本の場合、そうした考え方が根付いていない。SPはいても、今回のような地方遊説では地元の県警に混じって警護にあたり、結果として警備に穴が空いた。

 今回、安倍晋三・元首相が犠牲になった事件は残念極まりない。日本の民主主義を守り、類似の事件を根絶するには、事件をきっかけに国民も警備関係者も、そして政治家本人も、「リーダーは狙われる」という常識を身につけ、行動しなければならない。

※週刊ポスト2022年7月29日号

関連記事

トピックス

奈良公園で盗撮したのではないかと問題視されている写真(左)と、盗撮トラブルで“写真撮影禁止”を決断したある有名神社(左・SNSより、右・公式SNSより)
《観光地で相次ぐ“盗撮”問題》奈良・シカの次は大阪・今宮戎神社 “福娘盗撮トラブル”に苦渋の「敷地内で人物の撮影一切禁止」を決断 神社側は「ご奉仕行為の妨げとなる」
NEWSポストセブン
“凡ちゃん”こと大木凡人(ぼんど)さんにインタビュー
《“手術中に亡くなるかも”から10年》79歳になった大木凡人さん 映画にも悪役で出演「求められるのは嬉しいこと」芸歴50年超の現役司会者の現在
NEWSポストセブン
花の井役を演じる小芝風花(NHKホームページより)
“清純派女優”小芝風花が大河『べらぼう』で“妖艶な遊女”役を好演 中国在住の実父に「異国まで届く評判」聞いた
NEWSポストセブン
第一子を出産した真美子さんと大谷
《デコピンと「ゆったり服」でお出かけ》真美子さん、大谷翔平が明かした「病院通い」に心配の声も…出産直前に見られていた「ポルシェで元気そうな外出」
NEWSポストセブン
2000年代からテレビや雑誌の辛口ファッションチェックで広く知られるようになったドン小西さん
《今夏の再婚を告白》デザイナー・ドン小西さんが選んだお相手は元妻「今年70になります」「やっぱり中身だなあ」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「王子と寝ろ」突然のバス事故で“余命4日”ののち命を絶った女性…告発していた“エプスタイン事件”【11歳を含む未成年者250名以上が被害に】
NEWSポストセブン
世界中を旅するロリィタモデルの夕霧わかなさん。身長は133センチ
「毎朝起きると服が血まみれに…」身長133センチのロリィタモデル・夕霧わかな(25)が明かした“アトピーの苦悩”、「両親は可哀想と写真を残していない」オシャレを諦めた過去
NEWSポストセブン
キャンパスライフをスタートされた悠仁さま
《5000字超えの意見書が…》悠仁さまが通う筑波大で警備強化、出入り口封鎖も 一般学生からは「厳しすぎて不便」との声
週刊ポスト
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
エライザちゃんと両親。Facebookには「どうか、みんな、ベイビーを強く抱きしめ、側から離れないでくれ。この悲しみは耐えられない」と綴っている(SNSより)
「この悲しみは耐えられない」生後7か月の赤ちゃんを愛犬・ピットブルが咬殺 議論を呼ぶ“スイッチが入ると相手が死ぬまで離さない”危険性【米国で悲劇、国内の規制は?】
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン