山上徹也容疑者のTwitterより。橘玲氏による映画『ジョーカー』の分析記事をツイートしていた

山上徹也容疑者のTwitter(現在は閉鎖)より。橘玲氏による映画『ジョーカー』の分析記事をリツイートしていた

 秋葉原で起きた無差別殺傷事件(2008年)の犯人も孤立していましたが、それでも親身に相談に乗ってくれる故郷の友人や年上の女性がいた。映画『ジョーカー』では、アーサーは「自分はまるで存在していないかのようだ」と繰り返し訴えるほど孤独で、その“絶望”から狂気と妄想にとらわれ、ジョーカーへと変わっていきます。容疑者がアーサーに感情移入したのは、そこに自分と同じ「とてつもない孤独」を見たからではないでしょうか。

 ハロウィンの日にジョーカーの仮装をした24歳の男が、京王線内で男性の右胸を刺し、ライターオイルをまいて車内に火をつけた事件(2021年)がありましたが、日本の社会にはアーサー(ジョーカー)の造形に強く惹きつけられる男が一定数いるのでは、とも思います。

教団を悪魔化するようになった“逆の因果関係”

──元記事では「非モテのテロリズム」にも言及しています。アメリカで「インセル(Incel)」と呼ばれる性愛から排除された若い男性による無差別銃撃事件が立て続けに起こったことを、橘さんは「社会への復讐」と分析しています。

 一方、山上容疑者も〈ジョーカーがインセルを助長するかもしれないと米国では言われているが、確かに似ている。だがジョーカーに身勝手だと言っても何も変わる事はない。〉〈インセルが狂気に走って希代の悪党になる映画が大ヒットとなれば女としては困るのは分かるが、ジョーカーはインセルでないのではなく憎む対象が女に止まらず社会全てというだけ。「インセルか否か」を過剰に重視するのは正にアーサーを狂気に追いやったエゴそのもの。〉と投稿しています。これらはおそらく、橘さんの記事を読んだうえでのコメントだと思いますが。

橘:今回、投稿を読んではじめて「恋人に捨てられ」ていることがわかりましたが、フェミニズムへの批判やミソジニーへの言及もあることから、容疑者が自分をそこに加えていたかどうかはともかく、“インセル/非モテ”を意識していたことは間違いないでしょう。若い男の最大の絶望は、社会的・経済的に排除されることではなく、性愛から排除されることだと『無理ゲー社会』などで述べてきました。容疑者は、そうした怒りが社会への憎悪に向かっていくことを自覚していた可能性はあると思います。

 ただ投稿を見ると、容疑者はジョーカーをたんなる「非モテ」ではなく、もっと巨大な存在だと考えていたようです。「憎む対象は社会全て」というのは、今回の行動がより大きな物語のなかでの「復讐」であることを示唆しているようでもあります。

──山上容疑者が、サブカルチャーにおける究極のダークヒーローである「ジョーカー」と自分を重ね合わせていたとしたら、今回の事件はどのように考えられますか。

橘:すでに報道されているように、新興宗教団体に家庭や人生を破壊されたという強い怨恨があるのは明らかです。しかし、これを単純な因果関係で考えていいのかは疑問です。この教団に家庭を壊されたひとはたくさんいますが、そのほとんどは犯罪など起こしたりしないわけですから。

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