優勝パレードの車に乗り込んだ逸ノ城(時事通信フォト)
「同郷の先輩横綱」相手には勝てなかった
逸ノ城はそうした場に居合わせずに済んだわけである。しがらみにとらわれないこともあってか、2014年9月場所では鶴竜との初対戦で立ち合いに変化して0.9秒で金星を獲得している。ただ、そうしたスタンスが同郷の先輩力士たちからは睨まれることにもつながったように見えたという。相撲担当記者が言う。
「関脇としてのデビュー場所では初日に対戦した日馬富士にフライング気味の立ち合いで土俵下に落とされ、巡業では金星を奪った相手の鶴竜から連日のようにかわいがられた。鳥取の夜の呼び出しを断わった玉鷲のように同郷グループと完全に一線を画していたというよりは、逸ノ城は面倒そうな人間関係に巻き込まれたくなかっただけでしょう。結局、モンゴル横綱たちに対しては本気でぶつかるモードになれなかったところがあるのではないか」
白鵬をはじめとしたモンゴル横綱たちに対して、土俵上では徹底的に負かされた。通算成績では白鵬に3勝13敗、日馬富士に2勝7敗、鶴竜に3勝13敗という数字だった。番付上位の日本人力士を相手にした時の数字と比べると、その違いははっきりしている。稀勢の里に対しては7勝8敗(対横綱戦としては4戦4勝)、貴景勝に7勝9敗、正代には12勝5敗という成績を残している。
昨年9月場所で白鵬が引退。一時の勢いを失ったように見えた逸ノ城は、幕内上位で存在感を見せるようになり、ついに初めての賜杯を手にした。5場所で関脇まで駆け上がったデビュー当時の相撲が戻ってきたように見える。前出・若手親方が言う。
「逸ノ城の初優勝を一番喜んでいるのが、モンゴルから同じ飛行機で来日した照ノ富士ではないか。千秋楽に優勝した逸ノ城と記念撮影する白鵬(間垣親方)と鶴竜(鶴竜親方)の写真が翌日のスポーツに掲載されたが、モンゴル出身力士たちは複雑な気持ちで見ていた部分もあるのではないか」