“成功体験”があるがゆえの生きづらさを抱えて
インターネット社会。誰もが世界にメッセージを届けられる便利な時代、それだからこそ感じられる“成功体験”があるがゆえの生きづらさ。shelaは「プレッシャーでしたね」と振り返る。
「もちろん私たちが悪いのですが、やはり子どもは父親がいなければ寂しいはずで、申し訳ない……。この子のためにも、きっぱり音楽から離れ、子育てに専念しようと。ですが、私の唯一の取り柄である歌を封印することで、自己肯定感もどんどん下がっていってしまって……。
そんな中、いい母親になるために片っ端から子育てに関する本を読み漁ったりもしました。けれど、どれもピンとこなくて途方に暮れていた時に、森景子(絵本セラピスト)さんと出会ってそれまでのモヤモヤが晴れたんです。“いい母親になる必要はない。いつも笑っているお母さんでいればいい”。そう言われて、目が覚めました。私もそうなりたいって」
子育ての喜びと悩み。歌への想いと諦め。ひたむきに前を向きトライ&エラーを繰り返しながら息子と共に過ごしてきた彼女の人生を、とあるトリックスターが変えることになる。shelaの“ニセモノ”の登場だ。
ネット掲示板で目にしたファンのコメントが力をくれた
ネット掲示板「5ちゃんねる」。そこにshelaを名乗る者がスレッドを立てたのだ。友人から知らされ彼女は実際にそのスレッドを見た。コメント欄には多くの書き込みがあり、そこで彼女は、ファンの言葉を目にする。『あの曲が好きだった』『今もアルバム大事に持っている』。
「私のことを覚えてくれてる人がいたんだ!」「今も聞いてくれている人がいたんだ!」
心の底から嬉しかった。しかし、歌から離れて10年。もう二度と歌うことはないと思っていた。そんな彼女に「ありがとうの気持ちを歌うことで伝えてみたら?」と、現役時代を知る友人がYouTubeの開設を提案し、東京でのレコーディング環境を整えてくれた。
『歌ってみた』──ネット上ではよく見かけるコンテンツの形式だが、「音楽から距離を置くことが、自分にとっては前を向いて生きていくことだった」という当時の彼女にとっては、まさか自分が『歌ってみた』を撮影するとは思ってもみなかったといい、決断するのにも1カ月くらい悩み抜いたという。