「歌詞だけが自身を表現できる手段だった」

10年間の沈黙を破り、思いを語ったshela(写真/NAOKI メイク/永井友規)

10年間の沈黙を破り、思いを語ったshela(写真/NAOKI メイク/永井友規)

『feel』によって自らの壁がなくなった。「あなたはもっといろんな曲を歌えるんだよ」と教えてもらった。当時のプロデューサーとは何度もぶつかり、その度にディスカッションをしてきた。だがその結果、彼女の魅力は最大限に引き出されていたのだ。

 それでもshelaという存在と自分との乖離に悩みはつきまとう。ためしにヒット曲『friends』の歌詞を見てみよう。そこには“自分じゃなくてもいいのではないか”“時折、すべてを投げだしてゼロに戻りたくなってしまう”といったニュアンスのフレーズがある。

「shelaという設定の中で、唯一、歌詞だけが“素”の自分を表現できる場所だった。なので、よりリアルに私という存在感を示せるように、実体験だけを綴ってきました。『19RED』や、『君のいない場所はどこも嫌いだよ』などもそう。『friends』も、“shela=自分じゃなくてもいいんじゃないか?”という当時の悩みそのもので、地元の友達と互いに励まし合いながらまた東京に戻っていく。そんな等身大の日常を歌に託しました。『friends』を今も大好きだと言ってくれる方々いることを思うと、“shela”であっても、歌を通してファンの方たちともちゃんと繋がれていたんだなって」

「今でも歌は私のすべて」と言う彼女。だが、表舞台から離れるまでの数年、ユニットや舞台などにも挑戦するが、活動は徐々に失速していく。歌い続けていく未来に不安を感じだしたタイミングが、一人の女性として人生の節目ともいえる20代から30代へと移り変わる時期と重なった。

──母親になりたい!

 医者から妊娠しづらい身体だと告げられていたこともある。彼女は活動休止を決め、交際していた彼と結婚。地元である北海道へ戻った。そして1児を授かる。

 だが、幸せは長くは続かなかった。北海道での生活が始まり数か月で夫とは別居。子どもは彼女が育てることに。ここまでは、よくある話なのかもしれない。だが、彼女には逃れられぬ運命があった。彼女のことをよく知る友人は語る。

「彼女は引退をしたわけでもなかったので、shelaとして北海道へ行った形になるんです。『働いているの?』と訊いたことがあるのですが『働いてない』と。もし、shelaがどこかのお店でバイトをやっているのを見たら、ファンをがっかりさせるんじゃないか……と」

 何がきっかけで現在の自分について『shelaがこんなことを言っていた、やっていた』と、ネットに書かれるか分からない。それでは子どもを守れない。しかし、周囲と関わらない生活は彼女の孤独を意味する。たった1人、彼女は息子のことを一番に考え、平穏な生活を選択したという。

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