スポーツ

今夏の甲子園「ヒーロー」は誰だった? 仙台育英とあまりに対照的な「エースに投げさせる監督」の是非

「青春は密」のフレーズでも強い印象を残した須江監督は、「新時代」を象徴するような戦略で選手権を制した(時事通信フォト)

「青春は密」のフレーズでも強い印象を残した須江監督は、「新時代」を象徴するような戦略で選手権を制した(時事通信フォト)

 深紅の大優勝旗がついに「白河の関越え」を果たした。夏の甲子園を制した宮城・仙台育英の戦いぶりは、まさに“新時代の高校野球”そのものだったと言えそうだ。投手の酷使などが問題視され、大きな変革期を迎えている高校野球。それだけに、各校の戦略の違いもくっきりと浮かび上がる大会だった。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。

 * * *
 ヒーローなき優勝校――それが東北勢として初となる仙台育英(宮城)の優勝で幕を閉じた第104回全国高等学校野球選手権大会を総括する一言ではないだろうか。

 決して、スター不在という意味ではない。仙台育英は須江航監督の掲げる「日本一の部内競争」を勝ち抜いた18人の精鋭が互いを補い合い、手堅い守りと、圧倒的な走力で相手に一分の隙を見せない野球を展開した。部内に十数人いる140キロオーバーの投手陣の中からベンチ入りした選ばれし5人(右投手2人、左投手3人)が、与えられた役割を恐ろしいほど淡々とこなして相手打線を封じた。

 2回戦からの登場となった仙台育英は、決勝まで5試合を戦った。5人の投手陣で最も球数を投げたのは決勝で先発した3年生左腕の斎藤蓉(よう)で213球だ。胴上げ投手となった2年生右腕の高橋煌稀が188球で、高校日本代表に選出され、最も経験豊富な背番号「1」の古川翼でさえ124球。さらに右のパワーピッチャーの湯田統真が122球、千葉ロッテの佐々木朗希と同じ大船渡第一中学出身の仁田陽翔が81球である。

 多くの高校野球ファンが思ったに違いない。いったい誰がエースなんだ、と。

 決勝の下関国際(山口)戦で勝負を決めたのは、7回に飛び出した岩崎生弥の満塁本塁打だった。宮城大会ではベンチ外だった岩崎は、大会当初はベンチスタートも、準々決勝から一塁手としてスタメンに定着した。大病を乗り越え、逆転でベンチ入りした岩崎の一発なだけに、高校野球ファンの胸を打った。

 宮城大会から甲子園決勝まで、仙台育英が記録した本塁打はこの1本のみ。それでも甲子園では計69安打。長打には頼らず、単打をつないでつないで、つなぎまくって聖光学院戦では2回に11点、下関国際戦では7回に5点のビッグイニングを作った。

 突出した選手に依存しないチーム作り――それに徹したからこそ、仙台育英には特定のヒーローがいない。いや、日本一の部内競争を戦い抜いたスタンドを含めた部員全員がヒーローと換言できよう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

鮮やかなロイヤルブルーのワンピースで登場された佳子さま(写真/共同通信社)
佳子さま、国スポ閉会式での「クッキリ服」 皇室のドレスコードでは、どう位置づけられるのか? 皇室解説者は「ご自身がお考えになって選ばれたと思います」と分析
週刊ポスト
松田烈被告
「テレビ通話をつなげて…」性的暴行を“実行役”に指示した松田烈被告(27)、元交際相手への卑劣すぎる一連の犯行内容「下水の点検を装って侵入」【初公判】
NEWSポストセブン
Aさんの左手に彫られたタトゥー。
《10歳女児の身体中に刺青が…》「14歳の女子中学生に彫られた」ある児童養護施設で起きた“子供同士のトラブル” 職員は気づかず2ヶ月放置か
NEWSポストセブン
会談に臨む自民党の高市早苗総裁(時事通信フォト)
《高市早苗総裁と参政党の接近》自民党が重視すべきは本当に「岩盤保守層」か? 亡くなった“神奈川のドン”の憂い
NEWSポストセブン
知床半島でヒグマが大量出没(時事通信フォト)
《現地ルポ》知床半島でヒグマを駆除するレンジャーたちが見た「壮絶現場」 市街地各所に大量出没、1年に185頭を処分…「人間の世界がクマに制圧されかけている」
週刊ポスト
連覇を狙う大の里に黄信号か(時事通信フォト)
《大相撲ロンドン公演で大の里がピンチ?》ロンドン巡業の翌場所に東西横綱や若貴&曙が散々な成績になった“34年前の悪夢”「人気力士の疲労は相当なもの」との指摘も
週刊ポスト
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(インスタグラムより)
「バスの車体が不自然に揺れ続ける」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサー(26)が乱倫バスツアーにかけた巨額の費用「価値は十分あった」
NEWSポストセブン
イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
《長引く捜査》「ネットドラマでさえ扱いに困る」“マトリガサ入れ報道”米倉涼子はこの先どうなる? 元東京地検公安部長が指摘する「宙ぶらりんがずっと続く可能性」
アドヴァ・ラヴィ容疑者(Instagramより)
「性的被害を告発するとの脅しも…」アメリカ美女モデル(27)がマッチングアプリで高齢男性に“ロマンス”装い窃盗、高級住宅街で10件超の被害【LA保安局が異例の投稿】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト・目撃者提供)
《ラブホ通い詰め問題でも続投》キリッとした目元と蠱惑的な口元…卒アル写真で見えた小川晶市長の“平成の女子高生”時代、同級生が明かす「市長のルーツ」も
NEWSポストセブン
韓国の人気女性ライバー(24)が50代男性のファンから殺害される事件が起きた(Instagramより)
「車に強引に引きずり込んで…」「遺体には多数のアザと首を絞められた痕」韓国・人気女性ライバー(24)殺害、50代男性“VIPファン”による配信30分後の凶行
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《真美子さんと娘が待つスイートルームに直行》大谷翔平が試合後に見せた満面の笑み、アップ中も「スタンドに笑顔で手を振って…」本拠地で見られる“家族の絆”
NEWSポストセブン