だが、山本は自分の演技に納得していなかったと舞台関係者は語る。
「セリフだけでなく、歌、踊りと体全体で表現することを知り、勉強不足を痛感したと話していました。それから独学で英語を学び、本場のミュージカルを観るためにニューヨークに渡って3か月間を過ごしました」
以来、舞台を中心に活動するようになり、「舞台をやっている最中に死にたい」と公言するほど“生の芝居”にのめり込んだ。2002年の『ピッチフォーク・ディズニー』以来、たびたび舞台に山本を起用してきた演出家・俳優の白井晃氏が語る。
「子供の頃から舞台の経験があるので、表現力の基礎がしっかりしている。そのうえで理知的に自分に与えられた役柄に対峙し、自分を映し出して演じる役を完成させていく。能ある鷹は爪を隠すじゃないけど、技術を持ちながら、それを見せないところが彼の素敵さだと思います。
それに彼は耳がいい。私が演出を担当した『Lost Memory Theatre』(2014年)ではポルトガル語やフランス語などいろいろな言語が出てくるのですが、耳コピで完璧に覚えてくれた。記憶力が抜群で、その場で新しく渡した分量のあるセリフでも、30秒くらいですぐ覚えちゃうんです。あれはすごい」
役者のなかには、演出家に自分の考えを伝え、独自の演技プランを提案するタイプもいるが、山本は違う。舞台『嵐が丘』(2015年)で復讐に生きる男・ヒースクリフを演じた際、山本はインタビューでこう答えている。
〈舞台では基本的に演出家の方とディスカッションはしません。言われたことをやる、言わんとしていることを汲む。それが出来ていれば、その相乗効果でちゃんと作品は出来上がると思っています。ディスカッションして停滞している時間があれば稽古したいほうなので、基本的に話し合わないんです〉(『演劇ぶっく』2015年8月号)
白井氏が語る。
「もちろん疑問点があれば自分の考えや意見を言えるタイプです。『Lost Memory Theatre』でも最初はこの作品をどう捉えたらいいのか、2人でいろいろと話をしました。そのうちに自分の考えと彼の考えに齟齬がないことがわかり、全て身を任せてくれました。
作品の中での自分のポジションを把握し、自分の役柄がどういうもので、どう振る舞わなければならないかを察知できる。演出家の志向も冷静に判断できる人なので、こちらも落ち落ちできません。それゆえに刺激をもらえる。技術プラス、作品全体を俯瞰して見る力を持っている役者です」
(第3回に続く。第1回から読む)
※週刊ポスト2022年9月16・23日号