ビジネス

『イカゲーム』エミー賞6冠とあまりに対照的な日本のドラマ制作現場が抱える諸問題

米エミー賞授賞式での韓国ドラマ『イカゲーム』のファン・ドンヒョク監督(左から3人目)と俳優たち。監督賞など6つの賞を受賞し非英語作品のテレビシリーズでは初の主要賞受賞(AFP=時事)

米エミー賞授賞式での韓国ドラマ『イカゲーム』のファン・ドンヒョク監督(左から3人目)と俳優たち。監督賞など6つの賞を受賞し非英語作品のテレビシリーズでは初の主要賞受賞(AFP=時事)

 日本でもNetflixオリジナルやAmazonプライムオリジナルでドラマや映画が制作されるようになれば、世界で通用するリッチなコンテンツを制作できるかもしれない。そんな淡い期待を抱いていたクリエイターたち、制作に直接携わる人たちの一部は、またしても横行する「中抜き」に諦めの感情を抱きつつある。俳人で著作家の日野百草氏が、必要なところに制作費が届かない日本の実情を映像制作会社のプロデューサーに聞いた。

 * * *
「まさかここまで腐っているとは思いませんでしたが、VODのオリジナルドラマも金がきちんと現場に降りてきません。いくら配信本体が大金をつぎ込んでも誰かが抜いていく、日本のエンタメは本当に重症だと思います」

 映像制作会社のプロデューサーからこの話を聞いたのは2021年末、世界的なアメリカ発のVOD(ビデオ・オン・デマンド)企業が日本を席巻する中での話だった。

 VODとは一般的な説明をするなら「定額契約(サブスクリプション、以下サブスク)でドラマやアニメを視聴できる動画配信サービスのことである。こんな説明より、Netflix(ネットフリックス)、Amazonプライムビデオ(俗にアマプラ)、と言ったほうが早いか。国内企業もあるが、とくにこの2社はオリジナルドラマの制作に力を入れていて、たとえばネットフリックスのコンテンツ製作予算は約170億ドル(2021年度)と、日本のエンタメとはお話にならないほどに膨大である。

「期待していました。彼らは実際に巨額の制作費を出してくれる。日本のテレビ業界や映画界は中抜きまみれですから、海外企業という『黒船』なら日本の寄生虫のような連中も手を出せないだろう、そう期待したのですが」

 ここで言う「中抜き」とは本来の意味である仲介業者を省き直接取引をするといった効率化の意味ではなく、俗にいう過度の中間搾取、要するに「ピンハネ」の意味である。誤用から生まれたスラングだがすっかり定着してしまった。本稿も便宜上「中抜き」とする。

「たとえば、VOD企業が巨額の制作費を出したある日本のドラマは、その金額ほどに現場へ金が下りて来なかったのです。実際、鳴り物入りのはずがチープでお粗末なドラマでした」

 VODは先に挙げた世界的企業の他にも国内外に多数ある。どの企業の案件かは書かないが、あるオリジナルドラマはその総製作費に比して、現場には制作費がまわってこなかったと語る。それも珍しくはないと。

「これは私の関わった作品ではありませんが、ある大ヒット作品の続編すらそうだと聞きました。オリジナルドラマとして大ヒットして続編が決まった途端、嗅ぎつけた連中が間に入ってくるのです」

 この件、筆者も別の制作会社のディレクターから同様の話を聞いていて「何やってもピンハネする奴がいる」と苦笑していた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

杏が日本で入院していた
杏が日本で極秘入院、ワンオペ育児と仕事で限界に ひっきりなしに仕事のオファーも数日間の休みを決断か
女性セブン
都知事選に向けての出馬表明は不鮮明なまま
【最近のコンビニのお弁当は…】多忙を極める小池百合子都知事 同居男性の転居、愛犬との別れ、都庁で若手職員の離職が増加…深まる孤独感
女性セブン
窮地に追い込まれた岸田文雄・首相(時事通信フォト)
【これでは選挙を戦えない】岸田首相の政治資金規正法改正案に自民党内で不満渦巻く 支える者がいなくなった首相の総裁選再選は困難な情勢か
週刊ポスト
活動を休止中のもたいまさこ、今秋ドラマ主演予定の小林聡美
《3年間女優活動ナシ》もたいまさこの復帰願う小林聡美、所属事務所が「終活」で第二の旅立ちへ
NEWSポストセブン
落書きされた靖国神社入口の石柱(中国のSNS「小紅書」より)
【靖国神社に落書き】中国での反応は賛否両論 SNSでは「英雄による義挙」「落書きではなく“訂正”しただけ」など犯人を“英雄視”する動きも
週刊ポスト
中村芝翫と三田寛子(インスタグラムより)
《三田寛子が中村芝翫の愛人との“半同棲先”に突入》「もっとしっかりしなさいよ!」修羅場に響いた妻の怒声、4度目不倫に“仏の顔も3度まで”
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
【独占スクープ】中村七之助が京都のナンバーワン芸妓と熱愛、家族公認の仲 本人は「芸達者ですし、真面目なかた」と認める
女性セブン
都内の住宅街を歩くもたいまさこ
《もたいまさこ、表舞台から姿を消して3年》盟友・小林聡美は「普通にしてらっしゃいます」それでも心配される“意欲の低下”と“健康不安”
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告
【戦慄の寝室】瑠奈被告(30)は「目玉入りのガラス瓶、見て!」と母の寝床近くに置き…「頭部からくり抜かれた眼球」浩子被告は耐えられず ススキノ事件初公判
NEWSポストセブン
反自民、非小池都政の姿勢を掲げている
《一時は母子絶縁》都知事選出馬・蓮舫氏、長男が元自民議員との養子縁組解消&アイドルを引退していた
女性セブン
日本中を震撼させた事件の初公判が行われた
【絶望の浴室】瑠奈被告(30)が「おじさんの頭持って帰ってきた」…頭部を見た母は「この世の地獄がここにある」 ススキノ事件初公判
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 名古屋にも抜かれる「大阪沈没」衝撃予測ほか
「週刊ポスト」本日発売! 名古屋にも抜かれる「大阪沈没」衝撃予測ほか
NEWSポストセブン