“禊ぎ解散”論の浮上
岸田首相は早晩、このまま座して死を待つか、あるいは解散・総選挙に打って出るかの選択を迫られることになりそうだ。
だが、支持率30%割れの現状で総選挙を行なっても敗北は見えている。では、どうするか。
全国霊感商法対策弁護士連絡会が旧統一教会に対する解散命令請求や被害者救済の法整備を求める声明を出すなか、自民党内からも、「口だけの絶縁宣言では信じてもらえない。法的にケジメをつけるべき」(若手議員)と、同教団への解散命令を求める声があがっている。
「党として関係を断つなら、旧統一教会の解散を検討すべきだ」
そう提起するのは石破茂・元幹事長だ。週刊ポストの取材にこう語った。
「自民党として旧統一教会との関係を絶つというが、なぜ絶つのかという説明がない。宗教法人というのは公益法人、つまり世の中のためになる法人だと法律で認めているわけです。世の中のためになると一方で言っておきながら、これから先、一切の関係を断つというのは整合性が取れない。今なお被害に苦しんでいる人が大勢いるから関係を断つんですというならば、そんな教団が公益法人になっていることの説明がつかない。
私は旧統一教会に解散命令を出せと言っているのではありません。宗教法人法の条文に解散命令請求の規定がある以上、これを適用されることの是非とかの議論がないことがおかしい。旧統一教会との縁を切るなら、政策論として宗教法人法上の措置を議論すべきだと言っている。その結果、たとえ宗教法人でなくなって、いろいろな税制上の特典がなくなったとしても、憲法で保障されている信教の自由が侵害されるわけではありません」
石破氏自身、旧統一教会の機関紙「世界日報」の元社長から献金を受けたことを党の調査でも認めている。
「個人献金を受けたのは事実で、世界日報で対談もしました。そういう団体とは知らなかったが、安全保障関係の会議だったと思うけど講演もしました。今後はそういうこともいたしません。ただ、自民党として完全に関係を断つというのであれば、対象は国会議員だけではない。自民党公認の県議や市議、町議会議員は山ほどいる。それをどうするのか。法的措置を講じたうえで、この団体は公益に値しない団体だから、推薦も公認もいけないというのであれば理屈は通る。本当にそこまでやるのかを議論すべきでしょう。“時がたてばみんな忘れるだろう”みたいなのは私は好きじゃない」
消費者庁の「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」委員でもある紀藤正樹・弁護士は解散命令請求は可能だと指摘する。
「宗教法人法81条には、『著しく公共の福祉を害する』などの事由があると裁判所が認めた場合、裁判所が職権で『その解散を命ずることができる』と定めている。裁判所に宗教法人の解散を請求できるのは、所管庁(文科省)と信者や債権者などの『利害関係人』、そして『検察官』です。自民党には請求権がないが、岸田首相は永岡桂子・文科相に指示して所管庁である文科省から東京地裁に解散命令の請求を行なえばよい。解散を判断するのは行政ではなく、あくまで司法であり、裁判所から解散命令が出ると、旧統一教会は宗教法人ではなくなります」
政府が教団の解散を裁判所に請求するかどうかは岸田首相の決断にかかっていると言っていい。
官邸内には、「総理のリーダーシップで裁判所に旧統一教会の解散命令請求を出し、“膿は全部出した。国民に信を問う”と起死回生の解散・総選挙を打つしか生き残る道はない」という“禊ぎ解散”論が浮上している。
※週刊ポスト2022年10月7・14日号