国際情報

【対談】佐藤優×片山杜秀「ウクライナの大本営発表を真に受ける日本人に危機感」

作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏と慶應大学法学部教授の片山杜秀氏が対談

作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏と慶應大学法学部教授の片山杜秀氏が対談

 元総理大臣の暗殺やロシアのウクライナ侵攻など、“思ってもみなかった事態”が次々と現実のものとなっている。その対応から明らかになったのは、日本人の深刻な「平和ボケ」だという。元外務省主任分析官の佐藤優氏による新書『危機の読書』刊行を記念して、慶應大学法学部教授の片山杜秀氏と、令和ニッポンに潜む「みえざる危機」を語り尽くした。【全4回の第1回】

 * * *
佐藤:ロシアによるウクライナ侵攻以降、私には日本の危機が露わになったように思えてなりません。もともとウクライナは日本にはなじみが薄い国でした。ウクライナとウルグアイの違いも分からなかった人も多かったはず。にもかかわらず、いまや国民の大多数がウクライナに肩入れし、ロシアを敵視するようになった。

片山:確かにウクライナをメディアが連日取り上げるようになり、誰かが発信した情報を相対化も検証もせず「そうなのか」と鵜呑みにしてしまう人が増えた気がします。それが正しい情報ならまだいいのですが……。

佐藤:そうなんです。

 例を挙げれば切りがありませんが、マリウポリでロシア軍が化学兵器を使用したと断言した大学教授がいたでしょう。でも、実際は使っていなかったことが明らかになってきている。少し前には、年内にウクライナが勝利し、ロシア軍を駆逐すると力説した専門家もいました。願望なのかもしれませんが、まったく根拠はありません。また、ウクライナ軍は士気が高くて、ロシアは低いとさかんに語られましたが、士気が低い軍隊が1万1000人もの兵士を赤の広場に動員して、パレードできますか?

片山:ふつうに考えれば分かりそうなものですが、ウクライナ側の大本営発表を真に受けてしまう。日本人の体質は戦中と変わっていないように思えますね。

佐藤:大本営発表を素直に信じてしまう人も問題ですが、それ以上にウクライナの専門家と自称する解説者やコメンテーターの質は本当にひどい。

 本来ならメディアが検証すべきなのでしょうが、それは期待できない。ウクライナ危機では、珍しく朝日新聞から産経新聞までが、すべて同じ論調でした。

片山:それはウクライナ侵攻に限った話ではありません。7月8日に安倍元首相の銃撃殺害事件が起きましたが、翌朝の新聞一面は、朝日から産経まで横並びの見出しが並びましたね。「民主主義」への挑戦、もしくは危機をうたうものがほとんどでした。オウム真理教による一連の事件のときの各紙論調を彷彿とさせます。

佐藤:まったくその通りです。そもそも政治目的がないならテロにはならない。民主主義への脅威という話にどうしてなるのかが理解できません。

(第2回につづく)

【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ。元外交官。作家。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年に執行猶予付きで有罪判決。近著に『日本共産党の100年』『プーチンの野望』など。

片山杜秀(かたやま・もりひで)/1963年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。専攻は近代政治思想史、政治文化論。近著に『尊皇攘夷 水戸学の四百年』など。

※小学館新書『危機の読書』巻末対談より

関連記事

トピックス

「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/小倉雄一郎)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(容疑者の高校時代の卒業アルバム/容疑者の自宅)
「軍歌や歌謡曲を大声で歌っていた…」平原政徳容疑者、鑑定留置の結果は“心神耗弱”状態 近隣住民が見ていた素行「スピーカーを通して叫ぶ」【九州・女子中学生刺殺】
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン