片山:ゼレンスキー大統領の「最後の一兵まで戦う」という発言はまさにドラマのセリフだったんですね。
佐藤:ゼレンスキー大統領自身は、主観的には、戦争を避けてウクライナの統一を維持したいと思っていたと思います。ところがシステムを動かした経験がない。そもそも彼の芸風は、志村けんさんの「バカ殿」なんですよ。彼の“笑い”は、まともな周囲の存在があって成立する。政治だってそうなんです。閣僚や側近の力を借りなければならない。実は、大統領のブレーンのほとんどは、このドラマの仲間や番組関係者たちなんですよ。
片山:ドラマに現実政治が飲み込まれてしまったわけですね。この30年間、ウクライナが目指した民主政治の帰結がそれだと思うと、皮肉ですね。
(第3回につづく)
【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ。元外交官。作家。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年に執行猶予付きで有罪判決。近著に『日本共産党の100年』『プーチンの野望』など。
片山杜秀(かたやま・もりひで)/1963年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。専攻は近代政治思想史、政治文化論。近著に『尊皇攘夷 水戸学の四百年』など。
※小学館新書『危機の読書』巻末対談より