ベストセラー『80歳の壁』の著者として知られる精神科医・和田秀樹氏
正直な議論がしたい
大脇:最近、高齢者医療に携わるなかで気付いたのが、見逃され、放置されている心筋梗塞がとても多いことです。高齢になると、心筋梗塞になってもそこまで痛みがなく「心不全」としてじわじわ進行しています。脳の画像を撮ると、小さい脳梗塞を持って生きている高齢者も多くいることが分かります。
和田:私が浴風会病院にいた時も85歳を超えていれば、小さい心筋梗塞・脳梗塞はもちろんのこと、がんが体中のどこにもない人なんていませんでした。それでも、3人に2人はがんを放置して知らないまま別の死因で亡くなっている。病気は多くの人の考えるものと違い、老化現象のなかで日々起きているもの。それに対して、どこまでジタバタすべきなのか。医療という名のもとに、患者に制約を加えていいのかと感じます。
大脇:仰る通りですね。
和田:医学は常に中途半端です。中途半端なりに分かっている情報を伝え、確率論的にこっちが長生きできそうだと思った時に、それを選ぶのか、自分の快適さを選ぶのかは患者が決めることです。食べたいものを我慢したり、薬を飲んで調子が悪くなるような人生を、少なくとも医者の立場で患者に押し付けるなんて、僭越も甚だしいと思う。
大脇:中途半端だという認識は大事ですね。新技術が出てくるたびに細かい変化が強調されることで、あたかも医学は年々進歩していて、治らない病気もそのうち治せるようになるみたいな雰囲気が作り出されてきましたが、それはやっぱり良くない。治せないものは治せないと正直に患者に伝え、そのために無駄なお金はかけられません、などと、正直な議論をしたいですね。
和田:残念ながら、健康診断の数値なるものが、どれだけ残りの人生に関係して長寿になるとか、健康でいられるかは、まだ全然分かっていないと思います。私自身は、免疫とか栄養のほうが寄与する部分が大きいと思っており、さらに寄与するのが老化です。
老化が進めば、動脈硬化が起きない人はいません。ただ、私はストレスのないほうが免疫機能が保たれると信じています。数値や医者に振り回されず、自分で快適に気持ちよく生きたほうがいい、というのが基本スタンスです。
大脇:健康になるために生活を犠牲にするのは本末転倒です。また、健康になろうとしても、自分で何かに気を付けることによる健康効果は、多くの人が思うよりは小さい。生活習慣病などについてデータを詳しく調べれば、薬などの治療効果が小さいことに驚かれると思います。その治療を続けるかどうかは個人の価値観次第。大局を見失わず、細かい数字にとらわれないでほしいと思います。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。近著に『80歳の壁』(幻冬舎)、『老いが怖くなくなる本』(小学館刊)など。
大脇幸志郎(おおわき・こうしろう)/1983年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。近著に『運動・減塩はいますぐやめるに限る! 「正しい健康情報」の罠』(さくら舎)、『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』(生活の医療)など。
※週刊ポスト2022年10月21日号
